第7話

レグは迷っていた。

黒い服に身を包み、腰には拳銃が刺さっている。抜くことはないだろうが。

「どうした?」

「…本当に騎士を…殺すんですか」

上司である無精髭の男は、その髭を撫でる。

「知らん。が、まぁ…ボスはやるだろうな」

その答えに、レグは少し肩を落とした。

友人に誘われ、組織に入った。

お金はたくさんもらえる。怖いこともあまり言われない。したがっておけば、何も起こらない。

しかし、先日、ボスと呼ばれる人物が言ったのだ。

『騎士を殺す』

騎士団の重要人物を暗殺し、壊滅させるという話だった。

尚、その人物に会った場合、殺せるように各自武器を身につけていろ、と。

暗殺予定の人物の顔は全員頭に入っている。会えばわかるだろうが、レグにそんな勇気はないことは自分でもよくわかっていた。

そんなレグが足を運んだのは、ある男の部屋であった。

赤い髪の目つきの悪い男。

その傍には白い髪の笑みを絶やさない男が座っていた。

「何の用だ?」

目つきの悪い男。エルヴァンが口を開いた。

「まあ、そんな威嚇しないでよ。組織の人じゃん」

虫の居所が悪いのか、今すぐとびかかろうとするエルヴァンを白髪の男が制す。

レグはというと、思い切り身を竦めてしまっていた。

「あ、あの」

「早く言え」

「…騎士暗殺って…怖くないんですか?」

そんなことを聞きに来たのか、とエルヴァンが歯を剥き出しにする。

それを再び宥め、白髪の男が口を開く。

「なんで、そんなことを聞くの?」

レグは首を傾げた。そういえば、なんで聞こうと思ったのだろうか。

「…たぶん…俺には、騎士を殺すってこと…できそうにないから。」

「…だろうね」

白髪の男がクスリと笑った。

レグは聞きに来たことを軽く後悔した。

相手は、組織が…ボスが雇った殺し屋だ。殺すことに抵抗がないことぐらい、俺にだってわかる。

なぜ聞きに来たのだろう。答えは出ない。

「…俺はな、ガキンチョ」

エルヴァンが言葉を発する。

ガキンチョではないです。レグはそう言おうと思ったが、言えなかった。

その声が、感情のない機械のようだったから。

「…人を殺せることを、凄いなんざ思ってねえよ」


「クロちゃーん!待ってくださいー!!」

「うるせえちゃんと付いて来いノロマ!」

「酷いですよ!!」

夜の街を、二人の狐が走っていた。

クロツキとアマツキだ。

クロツキは屋根の上をスイスイと進んで行く。アマツキはそれに付いて行くのに必死だ。

「待って…待ってったらぁ…!」

「…遅い。お前それでも騎士?」

「騎士は、守るのが仕事なんです!」

「それがなんだよ。基礎体力は必須なんだろ?」

「…クロちゃんのは基礎体力の域を軽く超えてます」

クロツキがアマツキのスピードに合わせて走る。

目的地まで近い。

はぁ、と小さく溜息をつき、クロツキはアマツキの手を握る。

わ、という声が上がり、その声が置き去りにされる程のスピードでクロツキが駆け出し、アマツキが引っ張られていった。

数分して辿り着いたのは大きなビルだった。灰色の壁に、白と黒で装飾がされている。下層に窓は無く、上の方にしかついていない。

「ここ?」

「ここ…のはず、ですが」

アマツキは肩で息をし整えているが、クロツキは涼しい顔で息を乱すことさえなかった。

バケモノだな。アマツキは漠然とそう感じていた。

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