第6話

『さて』

『幼き契約者よ、貴殿は何を望む?』


『我の力、好きに使うが良い。』



「起きんね」

「——!!」


朝。

窓から差し込む日の光がクロツキの頬を照らしていた。

汗が浮かんでおり、息も少し洗い。

その傍に、アルハードが呆れたようにって立っていた。

——なんだ?

クロツキは首を傾げた。

俺は今、どういう夢を見ていた?

「おはよう。魘されとったけど、大丈夫ね」

「…あ、あぁ…」

「…またお父さんの夢かいな」

「…いや」

返答に首を傾げたアルハードをチラリと見て、クロツキは小さく息を吐く。

「覚えてないけど…父さんじゃなかった」

「そっか」

アルハードが小さく呟く。

「お客さんが来とるよ」

客?と首を傾げたが、すぐに答えは出る。

先日、あのメッセージをアルハードが騎士団に送ったはずだ。ならばその真相を知りに来てもおかしくはない。

それか、俺に討伐依頼か…。

軽く髪をとかし、寝巻きから着替え、前髪が火傷を隠すことを確認してからリビングへと足を踏み入れた。

「…お前アマツキかよ」

「あっクロちゃん〜!」

サンドイッチを口いっぱいに頬張ったアマツキがクロツキを見る。

ニコニコと笑顔を浮かべる前に、アルハードが紅茶を置く。

「クロちゃんもサンドイッチいります?」

「いらね。何の用だ?」

少し肩を落とし、アマツキは紙を出す。

「これ、アルハードさんが送ってきたものですよね?」

その紙には、例のメッセージが書かれていた。

「…で?」

「フォレストの討伐を僕がすることになりました。一人では不安なので、クロちゃんに同行を依頼します。」

「そうきたか」

アルハードが機械の前の椅子に座る。

暫しの沈黙。

沈黙に耐えかねたのか、アマツキが口を開く。

「報酬は魔石2個と、クロちゃんが欲する額のお金です。依頼…受けていただけますか?」

「アルぅ」

「フォレストの基地…は、町外れのマンション。今晩、頭領がおるらしいよ。それと…エルヴァンも。」

「そうか」

紙を手に取り、席を立つ。クロツキを見上げるアマツキに、クロツキは言う。

「いいよ。その依頼、正規の2割引で受けてやる」

「ありがとうございます!」

アマツキは笑顔を浮かべた。


恐らくこれは、アリシアの策だろうと思ってはいた。

クロツキは御用達の武器屋で考えていた。

恐らく、騎士団のみではフォレストを相手するのは難しいだろう。

ならば、過去、大きな組織を壊滅させたクロツキが居れば、容易いのではないか。

そう考えていてもおかしくはない。

もっとも、過去の組織壊滅にはもう一人別の人物がいたことは確かだが。

頼られるのは別に構わない。問題は、いいように使われていると言うことだ。

何をどうしても、クロツキはアマツキに甘い。

ならば、アマツキを使って少ない報酬で受けさせようとしている。それが、気に食わなかった。

アマツキ個人の依頼ならば、報酬は少なくてもいい。

騎士団からならもう少し弾んでくれてもいいのではないかというのが本音であった。

「考え事か?クロツキ」

「んぇ?…あ、まぁなぁ…」

「よくわかんねえが頑張れよ」

武器屋のおじさんがおまけしとくよ、と透明なワイヤーを入れてくれた。

さあ次は何を買おうか、とクロツキは踵を返し、家へと向かった。

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