第4話 アマツキ
その少女は豪華な扉の前で深呼吸をしていた。
「失礼します」
扉を開けて中に入ると、数人の目が此方を向く。
その中でも1番見慣れた顔の男のところの近くへ行く。
「…エノクさん、これ、なんで僕呼び出されたんですか?」
「…まぁ待て」
小さな声で会話をする。
それからしばらく経ち、鎧を身につけた数人の男女が入ってくる。
少女を含め、全員が敬礼して、長い赤髪の、赤い鎧を身につけた女性が座るのを待つ。
「…諸君」
凛とした声が響く。
「…私含め諸君らに暗殺予告が届いた。」
そばにいた黒い鎧の男が丸い水晶を起動させ、ある画像を出現させる。空中に浮かんだ画像を見て、その場がざわつく。
『騎士団を壊滅させるために、フォレストが殺し屋を雇ったという情報が入った。
アリシア、充分に気をつけるとよ』
そして、画像。
その場にいる全員の顔が添付されていた。
「我らに宣戦布告だと」
「しかしフォレストとは…」
「黙れ」
エノクが一喝する。
その場が静まり、エノクは満足そうに頷いた。
「俺たちがすべき事は、国民の安全を守る事だ。俺たちの身の安全などどうだっていいだろう」
数人が顔を見合わせる。
「エノクさん、それじゃあフォレストは好き勝手するだけですよ。」
少女が口を開いた。それを聞いた赤い鎧の女性が頷く。
「エノクが言うことも最も。だが、アマツキの言うことも正しい。そこでだ」
女性がアマツキを見る。
「アマツキ、君にこの件を…いや、フォレストを頼みたい。トルロディの使用許可も出そう。必要ならば、君の知り合いの手を借りても良い。この場にいる騎士と、その部下達に助けを求めることも許可する」
あまりの好条件にアマツキは呆気にとられ、そして口を噤む。それほどまでにフォレストとは分が悪い相手なのだろう。
しかし、断る事はできない。
「…わかりました。」
その返事に、女性が少し微笑んだ。「…でも」
「ん?」
「僕の命が危うくなれば、迷わず逃げることに許可をください。必ず討伐を致しますが、僕は僕の命が大事です。」
エノクが眉をひそめる。まぁそうだろうなと、アマツキは思った。
自分の命などどうでもいい、護るべきものを護る。そんな男だ。だから強く、気高く、尊敬ができる。
「…良いだろう。」
女性の言葉に、エノクの眉が更に寄る。
「ありがとうございます、アリシア様」
アマツキは足早にその場を後にした。
「お前があんなことを言うとはな。」
「意外でしたか?」
その日の食事の時間。アマツキの隣に座ったエノクが呟いた。
「ああ、意外だった。お前、自分の命が大事でも無理して戦うのがいつもだったろ」
「………クロちゃんに怒られたんですよ」
「…あぁ…」
エノクは納得の表情を浮かべる。「クロツキ、か」
「無理して戦われてお前が死んだら俺は何を頑張ってきたかわからなくなるだろ、って」
「言いそうだな」
「昔はそうではなかったんですけど」
昔のクロツキはもっと、護るべき者がどれだけ傷ついても自分と対象の命さえあればどんな無茶でもしていた。それが、最近では無茶は極力せず、安全をよく考えて行動するようになった。
僕に傷一つつけないように扱うようになったのも、あの出来事があったからかな。
アマツキは静かにパンを口に運んだ。
「…ま、なんかあったら言えよ。可愛い後輩のピンチならどんな仕事でもすぐ終わらせて駆けつけてやるからよ。」
「ありがとうございます、エノクさん」
アマツキはにっこりと微笑んで礼を述べる。
アマツキより後に来たはずなのに食事を終え、席を立ったエノクに驚き、急いで口にパンを放り込み、エノクの後に続いて訓練場へと向かった。
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