第3話
「へぇ、お前が他人に先を越されるなんて珍しかねぇ」
「うっせ」
椅子に座ったアルハードがくるりと体ごとクロツキを向き、ニヤニヤと笑みを浮かべる。
自分の手柄だと偽ろうとも思ったが、やめた。
それはやっぱり詐欺になるだろうし、何より使用された得物が違う。あっちは銃、クロツキはナイフだ。
機嫌が悪いクロツキから視線を外し、アルハードは机の上に置いた旧型の端末機器を覗き込む。
四角い画面に、キーボード。パソコンのようなものと言えばわかるだろうか。
「…………そいつの名前、何て言いよったって?」
「アルヴァン…や、違う、エルヴァンだったか」
「どっちね」
「エルヴァン」
キーボードの上を指が踊る。
タン、と音が止み、画面をクロツキに見せるように体をズラした。
「こいつ?」
赤髪に鋭い目つき。確かに、こいつで間違いない。クロツキは小さく頷く。
「…フォレストに雇われた殺し屋やね。」
「フォレスト?」
「フォレストも知らんと?」
アルハードは大袈裟に肩を竦めて見せる。
その仕草がさらにクロツキをイラつかせる。かといって殴りかかるわけにはいかないので、クロツキは近くにあった花を折る。
「…俺のお花が」アルハードが嘆くように呟く。「自業自得だ」
「まあよか。フォレストは…まぁ、犯罪者組織の一つ。騎士団も手を焼いとるらしいよ。」
説明を受けて、クロツキは眉を顰めた。
フォレストは元々、小さな組織だったという。
組長が始めた人身売買が身を結び、大金を手に入れたと同時に大きくなり、今では騎士団も迂闊に手を出すことはできないのだとか。
対立していた他の組織も彼らによって壊滅させられ、今もなお大きくなりつつあるという。
「…そいつらが雇ったの?」
「せやろね。だとしたら、かなり強いっちゃなかと?」
「…そうかなぁ」
「お前と戦った時は手を抜いた、とか」
クロツキは頷くことはできない。いずれにせよ、エルヴァンの戦闘力は未知数だ。
ただ、気がかりなのは。
「…そいつら…フォレストだっけ?は、なんでエルヴァンを雇ったんだ?」
質問を投げかけると、アルハードが再び端末を操作し始める。
時間が掛かると思ったのか、クロツキは棚からパンを取り、食べ始める。
パンが無くなった頃、アルハードが声をあげた。
「あぁ」
「?」
「あいつらの狙いは、騎士団の団長と、その幹部みたいよ。」
見せられた画面は一通のメールだろうか。
『騎士団を壊滅させるために、以下の者を殺せる殺し屋を雇いたい。』
そして、その下には、有名な騎士団長と、数名の人物の画像。
その中には、クロツキに良く似た少女も写っていた。
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