第2話

「虐待、ねえ」

クロツキはふん、と鼻を鳴らした。

「典型的なヤツ。殴る蹴るの暴力。悪知恵は働くらしくて服の下、つまり外から見えんところを、って」

アルハードは笑う。「馬鹿やねえ」

「で、どうしろって?」

「殺してよかよ」

「……………」

さらりとえげつないことを言うな、こいつは。

クロツキは軽くため息をついた。

「居場所は?」

、家におるよ。大通りの一番近くの裏路地から入れる赤い家。」

クロツキは地図を思い浮かべ、小さく頷く。

机の上に放り投げたナイフを掴み、踵を返して扉から外に出た。

月が美しく、生ぬるい風がクロツキの頬を撫で、前髪を揺らす。

前髪の下にある火傷が露わになるたびに通りがかった人が驚き、目を背ける。中にはヒソヒソとクロツキを指差している人も居るようだ。

バカみてえ。

クロツキは鼻で笑った。


目的の場所につくと、そこには先客が居た。

「…誰だお前」

「あ?」

赤いボサボサの髪の、目つきの悪い男。

下の方が少し膨らんだような形のズボンに鎖がついており、月光を浴びてキラキラと光っている。

黒いシャツには血がこびりついている。

その男が胸ぐらを掴んでいる相手は、先ほどアルハードから聞いた男の特徴と一致している。というか、その男だった。

痣が顔のいたるところにあり、涙目で震えながらこちらを見ている。

「お前、誰だ?」

再び訊ねる。

「ちょっと待て」

赤髪の男は手に持った銃で男の頭に風穴を開ける。

返り血がクロツキの足元まで飛び、クロツキは顔をしかめた。俺の獲物だったのに。

「あー…まずテメェから名乗れ?」

「…」

はぁ、と小さく息を吐き、相手の要望に答えてやる。

「クロツキ。まぁ、偽名だけど。」

「あっそ。本名は?」

「教えるわけねえだろ馬鹿か」

すると相手が銃を構えた。

なんだよやるのか、と身構えるが、やめた。無意味な殺しはご法度だ。

「教えろよ」

小さくつぶやき、距離を詰めてくる男を軽くいなし、転ばせ、上に乗ってその喉元にナイフを突きつける。

「帰れ。俺は今機嫌が悪い」

「なんで」

「お前に獲物を殺されたからに決まってるだろ……」

呆れた。こいつ、自分がしでかしたことの重大さもわかっちゃいねえ。

「…俺はエルヴァン。…次会ったら本名を教えろよ」

エルヴァンと名乗った男が消える。

突然の出来事に呆気にとられ、すぐにその現象が魔術だということを察する。

——魔術師か?

——それとも、仲間が魔術師、か。

クロツキは一つ息を吐き、男の亡骸を掴み、その場を後にした。

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