第1話 夜の仕事
夜。
人は寝静まり、夜行性の動物が動き出す時間。
暗闇の中活動する生き物たちは、自分より大きな生き物を警戒する。
そして。
「なんなんだよ…なんなんだよお前は!!」
男は建物の壁を背にし、悲鳴を挙げる。
その頬を小さなナイフが掠めた。
月を背後に、一人の人物が浮かび上がる。
正面から見て顔の右半分を前髪で隠し、頭には獣の耳を生やし、怪しげな笑みを浮かべる。
「俺か?」
間を空けて、訊ねる。
「俺はクロツキ。お前がこれからどうなるかは、お前がよぉぉぉく知ってるはずだぜ」
男の頬に汗が流れる。
「なんの…」
「惚けてもムダだ。え?ほら思い出してみろ?一昨日だったっけ、女を抱いたあと、どうしたよ?」
男の顔色が変わる。
一昨日は確かに女を一人抱いた。抱いて、寝て、朝になると生意気だと思ったから首を締めて殺したのだ。
死体は業者に頼んだ。なのに、なのに。
「なんでお前がそれを知ってんだよ!?」
クロツキは再び笑った。喉の奥を鳴らして、恐怖を植え付ける表情で。
「お前やっぱバカだなぁ。誰も見てなかったとでも思ってるのか?」
「…!?」
男が必死に足を回転させて逃げ出す。が、なにかに躓いて転び、無様にゴロゴロと転がる。
クロツキは軽い足取りでそんな男に近づき、ナイフを喉に当て、一気に横に凪いだ。
「あー疲れた。ただいまぁ」
「おかえり。どうやった?依頼成功の連絡送ってもよか?」
家の奥から声が聞こえた。
男の死体を担ぎ、声のする方へと足を進める。
「おぉ、死体だ。さんきゅー」
声の主が嬉しそうに言う。
茶髪にメガネ、だぼっとした白いシャツに灰色のズボン。顔は悪く無いのだが、そんな見た目の所為で女にみむかれることはないといった見た目をしている。
名前をアルハード。職業は情報屋をしている。
「いいよ、連絡送って。あとこれ、やるよ」
「まじ?おぉう、ありがとうなー。これでまた実験材料が増えたばい。感謝しちゃるよ」
えらく訛ったセリフを吐き、アルハードは机に置いてある端末を操作する。
「アル、次の依頼は?」
「次、か」しばらく間を空け、言う。「過去殺人犯で、今は子供虐待の父親たいね」
「…虐待」
「離婚しちょる母親から依頼が来とるとよ」
クロツキとアルハードは、いわば仕事の相棒と言ったところだろう。
アルハードが仕事の依頼を受け、クロツキがそれをこなす。
仕事の内容は、こうだ。
犯罪者の始末。
犯罪を裁く騎士団でも、賄賂で罪を見逃すことだってある。そんな世だ。
そのように無罪となった犯罪者を調べ上げ、制裁を下す。
主な仕事だ。
もちろんそれだけではない。依頼料を払った相手の望みを叶え、人を殺す。
理由がどうであれ、仕事はこなしている。
クロツキに迷いは無かった。
「そいつ、殺せばいいの?」
「制裁を、ってさ。」
アルハードが笑う。
「仕事、行ってらっしゃい」
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