第42話

 最寄駅に着く、がギリギリである。


 ……走るしかないか。


 こういう時に、坂の上の学校を選んだのを悔やむ。アクセスがクソな学校を選ぶとこういう時に地獄を見る。

 ……愚痴っても時間は待ってくれない。

 春香ちゃんは僕のことなどお構いなしに全力でダッシュし始めた。


 ――速いな


 とうに追いつくのを諦めた僕は、肩で息をしながら、それでも全力で校門へと走った。


 *


「ま、ま゛にあっだぁ……」


 なんとか朝礼までに間に合う。ほんとに坂は良いことが一つもない。――いや、パンチラあるから良いことはあるけど。


「おう、珍しくギリギリじゃねーか」


「あ゛、ああ、耀司……ちょっと色々あってな……」


「彼女、置いていったらダメだからな」


「それは大丈夫……かな」

 僕が置いてかれたよ、ええ。



 本当に朝から色々あったな……


 *


 四限終わりのチャイムが鳴る。購買へと競争する人間を横目で見ながら生徒会室へ向かう――


「あ、センパイ」


 扉の前で呼ばれる。どうやら僕が早かったみたいだ。


「ああ、今開けるよ」

 キーを挿し込み、ぐるりと回す。


 ――いつもの光景。ここは変わらないな。


「お弁当、食べましょっか」

 いつもの席に座った彼女は、お弁当の布を解いていた。


「今日はですね、生姜焼きですよ生姜焼きっ!」


「それは美味しそうだな」


「どうぞ」

 黒の弁当箱を渡される。僕のために買ってくれたみたいだ。


 蓋を開けると……


「あれ、色が……」


「茶色くないですよね♪ 彩りを勉強してきました♪」


 レタス、卵焼き、生姜焼きと入っていて色合いが綺麗だ。

 最初の頃の茶色さが嘘のような中身を見ながら、僕は幸せ者だなぁ、と思うのだった――



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