第38話

「で、次はどこ行くんですか?」


「うーん、実は決めてなかったんだけど……」

 ――僕の計画性の無さが伺える。


「じゃあ、ちょっと行きたい所があるんですけど……いいですか?」


「あ、ああ。行こうか」


 と、彼女に手を引かれる。

 長い髪からはいい匂いがする――ってなんか変態みたいだな僕……


 *


「ここです」

 連れて来られたのは大人向けの雑貨店。この間行った店とは、打って変わって色が大人しめだ。


「じゃあ、適当に買い物するんで待ってて下さい♪他の店も行きますし……」


「了解。待っとくよ」

 そう言い残し、中へと入っていく彼女を見ながら、僕もある目的のためにその店へと入って行った……


 *


「お、結構買ったね」

 両手に紙袋を持つ彼女は少し大変そうだ。


「少し持とうか?」


「お願いしても良いですか?」

 ……ちょっと重いな。


「今日はいっぱい買ったね……」


「かさばるモノが多いんですけどね……今回は服を見に行けなかったので、次は下着とかも見に行きたいです♪もちろんセンパイも一緒に///」


「え、遠慮します……」

 ――妄想が止まらなくなるからね!仕方ないね。


「わ、私はセンパイが選んでくれた下着ならどんなのでも……」


「僕がきわどい下着を選ぶっていう前提はやめてくれ」


「そんなこと言ってませんよぉ?私は"選んでくれた"って言っただけですよぉ?」


「それともそういうえっちぃ下着を選ぶ気だったんですか?/// それでも私は良いですけど……」


 ……ハメられた。


「ああ、はいはい。僕が悪かったですよ」


「じゃあ次はお願いしますね♪」


「分かったから許してくれ……」


 ――ああ、たぶん僕は一生この笑顔には逆らえないだろう。


 *


「今日はわざわざ付き合ってくれてありがと」

 ショッピングセンターからの帰り道、春香ちゃんの最寄駅から家へと送る。

 冬よりは明るいとはいえ、夜道を女の子一人で歩かせるのは気が引けたからだ……


 ――まあ、今日のメインの買い物である電気シェーバーを買って、と言ったのは春香ちゃんなんだけど。


「いえいえ、私もセンパイとお出かけできて良かったですよ♪」


「これ、その、プレゼントなんだけど……」

 と、家電量販店の袋から一つの紙袋を取り出す。


 その茶色の紙袋は、最初に彼女に連れて来られた店のものだ――


「え、えと……なんですか?コレ……」


「いつもお弁当作ってくれるし……迷惑かけることも多いから、感謝の気持ち……みたいなものだよ」

 ――嘘はついてないからね?


 紙袋を手に取る彼女。まだ疑ってるのか……

「これ、開けてもいいんですか?」


「いいよ、というか今開けて」

 そう言うと、彼女は恐る恐る封を切る。

 ……剃刀とか入れてないからね?


「え、これって……」

 ――中から出てきたのは、菫の髪飾りだ。


 割と普通のセンスですいません。


「いつもその長い髪を見てて、こういうのも良いかなって」


「あ、ありがとうございます。大切に……しますね」


「ああ、そうしてくれると嬉しいな」


 鏡もないのに器用に花飾りをつける彼女。こういう姿も様になっているなぁ……



「似合って、ますよね」

 髪飾りをつけた彼女は嬉しさがこっちにも伝わってくるぐらいの笑顔で、こちらへと振り返る。


 月に照らされはっきりと見えるその姿。それは幻想的で、彼女の美しさを感じさせるものだった。


「ああ、……かわいいよ」


「あ、ありがとうございます」


 照れる彼女だったからか、僕からかは分からないけど、どちらともなく手を繋ぎ、家路へとゆっくり向かうのだった――

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る