第16話

「今なんて言った……?」

 念のために確認を取る。僕の耳がおかしかったのかもしれない。


「だ〜か〜ら〜、携帯のアドレス交換しよって言ったんですよ。なんならLineで良いですよ♪」


 聞き間違えてはいなかった。そしてそれを認めたくなかった。が、


「あ、はい」

 美少女のアドレスが貰えるなら……と少し思考停止していた。まあ嫌いじゃないし。


「QR見せてください♪」

 慣れた手つきで登録を済ませる彼女を眺めながら、悟った。

 彼女はアドレス交換まで目論んだ上で"お買い物"の話をしたのだな、と。


「これでいつでも連絡できますね、センパイ♪」


「あぁ……」

 嵌められた。


 *


 時間は早く過ぎ去るもので、約束の日曜日になっていた。

 計画性のない人生を歩んできた僕は、約束の時間ギリギリまで支度をしていた。ただ、小さい頃の洗脳のおかげか10分前にはなんとか駅前に着くことができた。できたのだが––


「君一人? よかったらお茶しない?」


 男が、いた。そこそこイケメンで、身なりからして大学生だろう。

 もちろん相手は春香ちゃんである。よく話しかけられるなオイ。陰キャの僕には無理だぞ。

(というか春香ちゃん来るの早くないか?)


 彼女の身なりは一言で言えば清楚。黒髪清楚白ワンピという童貞殺しだ。殺されそう。


「すいません、人を待っているので」

 きっぱりと言い放つ。まあ当然の反応だろう。


「こんなかわいい子待たせてる奴なんか置いてさ〜……

 と言いかけた瞬間、彼女が動く。一瞬のことで呆気にとられるが、気がついたらそいつが地面にうずくまっていた。


「彼はそんなことするような人じゃないので♪ こうやって約束の5分前に来てくれましたし」と少し離れて見ていた僕を指差す。いつの間に気がついていたの……?


「さ、行きましょセンパイっ」

 と手を引かれる。この子怖い。間違っても逆らわないでおこう。


 とりあえずナンパしてた彼に誠心誠意謝り、そのまま彼女のお買い物に付き合うことになった……

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