第8話

「……」

「……」


 長い静寂。


 向かい合って座った僕たちは、何一つ言葉を交わさず紙に目を落としていた。


 ――耐えられないな、この空気。

 そう思った僕は、なんと無謀にも目の前の美少女に話しかけた。もちろんノープランだ。


「あの、名前を聞いても良いですか?」

 自然だ――(?)


「なんでセンパイは私に対して敬語なんですか?」

 ……ん?

 彼女の予想外の返答に詰まる僕。しばらくして彼女は続ける。


「藤原涼太センパイ、なんでセンパイは私に敬語を使うんですか?」


 なんで僕の名前知ってるの???てかかわいい声で名前呼ばれるの興奮するな???と色々な感想で混乱する頭の中、かろうじて


「しょ、初対面だから……」

 と噛みながら答えた。(ダサっ)


「会うのは今日が初めてですが、これから委員会でも学校でもお世話になるのでやめてください」

 と少しきつく言われたので、気が弱い僕は


「分かったよ」

 としか返せなかった。


「で、私のことは春香ちゃんか春香って呼んでください♪」

 ……?!しばしの沈黙。


「はい?」


「だから〜 私のことは春香ちゃんか春香って〜…


「呼びません!」

 彼女の言葉を遮る。女の子にこんなに語気を荒げたのは初めてで自分でも驚いた。

 ――すると


 目が少し潤んでいる……こういう所もかわいい。いじめがいがある。

 が、このままほっておく趣味は僕にはないし、何より罪悪感が湧いてきた。


「春香……ちゃん、とりあえず泣くのはやめてくれ」

 精一杯の譲歩だ。下の名前を呼び捨てなんて仮にも"ただ"の先輩後輩の仲ではできない。


「ありがとうございます、センパイ!」

 目尻を指で拭いながら、彼女は笑顔で答えた――

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