第6話

 ――美少女がいた。


 そう表現するしかなかった。机に向かい、ページを静かに捲っている女の子は、長く艶やかな黒髪、少し小柄な体型、それでいて出る所は出ているという妄想を具現化したような子だったからだ……

 そしてそれが噂の一年生だということに気がつくのも、そう遅くはなかった。


「あっ…」

 一瞬言葉に詰まる。(オタク特有のコミュ障)


「あの、生徒会長はどちらかご存知ないでしょうか?」

 ……話しかけることには成功したが、下級生に向かって敬語で話しかけてしまう。ここまでの人生で、人とあまり関わってこなかったことをここまで呪ったことはなかっただろう。


「会長なら見回りに行かれたので少し待っていただければそのうちお戻りになると思います」


「分かりました。入れ違いになるのを避けたいので会長が戻ってくるまでここに居させて貰ってもよろしいでしょうか?」


「えぇ、どうぞ。お茶とかどうですか?」


「いえ、お構いなく」

 ……とは言ったものの、正直心臓が破裂しそうだった。目の前にはかわいい女の子、二人きりの部屋、差してくる日差し、そして静寂。高鳴る心臓の音を聞かれないようにするので精一杯だった……


「早く来てくれ……早く……」半ば祈りに満ちた思考を、時計の針が音を立てる音と時折紙が捲れる音が責め立てる。


 とその瞬間、


「いやー遅くなってすまないね」

 明るい声と共に女子生徒が扉を開けて入ってきた。なんとか救われた――


「ふぅ……」と息をつくが、幸い二人には聞こえていなかったようだ。

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