第3話 魔法使い
「・・・・・・なあ、1つ聞いてもいいか?」
「何でも聞いていいですよ?あ、でもセクハラは駄目ですよ」
「なんで濡れてないんだ?」
「・・・・・・・・」
さっきまでとは違い、空気が重くなるのを感じた。
「この雨で濡れずに済むなんて不可能だろ。傘があっても全く濡れないってのは無理だ」
そう少女は髪どころか靴すらも全く濡れていなかった。
静けさに外の雨音が響き渡る。
俺がここに来た理由は雨宿りで、俺自身は髪と上着は雨で濡れてしまっている。
「・・・・・・そこに気づいてしまうんですね」
顔を伏せたまま少女がポツリと呟く。
「残念ながら鋭いからな」
「そう・・・・でした・・ね・・・・・」
俺には何故こんな空気になってしまったのか予想もできなかった。
「ふふっ、しょうがないですね。私の秘密を話すしかないみたいです」
「・・・・・・おう」
一人でミステリアスな空気を作ってるとこ悪いけど、そんな大した理由じゃないだろ。
「私がこの街に派遣された魔法使いだからです。濡れてないのは雨が降る前からここを調査してたからです」
「・・・・・・まじか」
衝撃の事実に驚き立ちすくむしかなかった。
この世の中、魔法使いとか存在する設定だったんだな。
「ちょっと待て・・・・・。そういう事ってバラしていいのか?」
「大丈夫ですよ」
さっきまでの笑顔とは違い、不気味に感じた。
大丈夫ってどういう意味の大丈夫なんだ。
後退りして少女と距離をとる。
「警戒しなくても大丈夫ですよ」
もう笑顔からは恐怖とか負の感情しか感じなかった。怖えよ!
「そのニュアンスだと俺は大丈夫じゃなさそうなんだが・・・」
「安心してください―――――」
「魔法使いっていうのは冗談です」
「・・・・・・・・・・・・へ?」
心の底からマヌケな声が零れ落ちた。
「悠さんって意外とこういう事信じるんですね」
「・・・・・・・・・・」
やられた。普段なら騙されないのに、雰囲気にのまれてしまった。
「魔法使いというのは嘘です。濡れていない理由が雨が降る前からここにいたのは本当ですけど」
「・・・・・・これはダメージでかいわ」
「さっきのお返しです」
都合の悪いことはさっさと忘れてしまおう。
「なんでこんな所にいたんだ?」
「意外と立ち直り早いですね」
「こうでもないと世の中生きていけないからな」
「世知辛いですね」
「基本現実なんて理不尽で厳しいからな」
「私は優しい世界を所望します」
「神様にでもなって世界を変えてくれ、自称魔法使い」
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