赤いスタンプ

「…?」


 テーブルの上に出された、自分が書いたラブレターの封筒を見て、野上君は不審に思います。


 今までの様に、添削結果を示す「もう少し頑張りましょう」の赤いスタンプが、何処にも見当たらなかったからです。


 訝しげに顔を上げた野上君に、真銀さんが目を合わせます。


「─ 花丸あげても良いんだけど…」


「…」


「それだと…添削料のお茶、来週の土曜日で、最後に なっちゃうよね?」


 カップに手を伸ばして、真銀さんの視線が逸れました。


 それを切っ掛けに 鞄を開けた野上君は、予てから準備していたもの取り出します。


 テーブルには、3枚のカラフルな印刷のチラシが並びました。


「再来週の土曜日…一緒に、何処に行く?」


 真銀さんが自分を指差す動作をしたので、野上君が頷きます。


 嬉しそうな表情を浮かべて、真銀さんは<アルフォンス・ミュシャ展>のチラシを選びました。


「大好きなんだよね、私。ミュシャって。」


 手に取ったチラシを、熟読し始める真銀さん。


 その様子を野上君は、紅茶を飲みながら眺めました。


 満足した真銀さんは、チラシをテーブルに置き、鞄から赤ペンを取り出します。


「添削料じゃなくて<デート>なんだから…」


 封筒に、大きな花丸を描きながら真銀さんは呟きました。


「─ 再来週は…割り勘で、良いからね♡」

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