お題 猫
――たやすいやつらだ。
一言鳴けば帰ってきた飼い主がひょいと持ち上げ、顔を近づけてくる。カーテンの隙間から見える月を楽しんでいたのだけれども、明かりが点けられればそれは目立たなくなる。素直に不満だった。
「ただいま」
それでもここで飼われているのだからこのように機嫌を取らなければならない。名前を付けたのもこの飼い主なのだから。
下ろされるとじいっとそこで待つ。そのようにしていれば餌と水を変えてくれる。もう一言鳴く。すると用意する動きが速くなった。思った、やればできるじゃないかと。
食べ始めると、すぐそばで飼い主もビニール袋から取り出した飯の数々を開けていく。しかし瞼がひどく重たそうで進みが悪い。いつものことだ、だから気にはしない。
時間が経てばようやく飼い主はベッドの上に寝転ぶ。自分だけで寝るのが好きなのだけれど、ひょいと腹の上に乗る。そうすると嬉しそうにするからだ。
しゃべりかけてくる話に求められている返答はできない。わかっているはずなのにいつも同じことを繰り返す。意味がわからなかった。適当ににゃあと言ってやれば勝手に理解して笑顔を浮かべる。
そもそも話している内容がわからない。カーテンの隙間から入る光がまだ弱いとき、まだ寝足りないときに飼い主は一人で外に出ていく。その外でのことを言っているのだろうけれどそこを知らないし、飼い主以外の人間というのもあまり知らなかった。
気づけば飼い主は動かなくなった。が、腹はぷかぷかと動く。寝たのだ。自分だけ満足して眠ってしまった。こうなれば下から伝わる熱は熱いだけなので、自分の好きなところへと戻っていく。
「いってきます!」
薄目を開ければいつも通りに飼い主が外へと出ていった。元気よく飛び出していった。
よく行くものだと思いつつ、もうひと眠りの前に一言だけ。
「にゃあ」
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