お題 夜の帳が降りる頃

 わかっていたさ。僕はわかっていた。でもどこかうまくいっていることもあるのではないだろうかと思って、でも思えないこともあったけれど、でも思い込めることにした。

 沈んでいく太陽が彼女の顔をはっきりと僕に見せつける。僕はもう一刻も早く目を背けたかった。でもそれはひどく失礼なことになる。もうすでに失礼なことをしているのに、これ以上失礼なことはしたくなかった。


 思いを込めればうまくいく。意を決すれば物事は前へと進む。

 ああ進んだ進んださ。僕が望んでいなかった方向へと。


 どうすればいいのか。もっと思いを込めればなんとかなるものなのか。そんなことをすれば夕日が僕の目を焼き焦がし、目玉焼きのようになってどろりと床へと落ちるだろう。

 そうか、そうなれば目をなくした僕を哀れに思って彼女は考えを変えてくれるかもしれない。


 私のせいで目をなくした君のために、私はずっと君といるからね。


 なんと情けない。現実を受け止めろ。僕はたった今彼女にそうはならないと言われたばかりなのに。

 わけがわからない。町中には恋人同士があふれかえっている。つまりはあの組の数だけ思いが届いているということだ。あんなにも、あんなにも多くそうなっているのにどうして僕はどうしてもそうならないのだ。

 結局はすべて下心だというのに。それをうまく汚く隠しているだけというのに。愛の恋だのそれらすべて生殖のための言い訳だというのに。僕とあいつらの何が違うっていうんだ。


 教えて欲しい。どうすれば君は僕を受け入れてくれるのかを。まずはそれを尋ねることを許して欲しい。調べることが大切であるというのに、君はそもそも調べさせてすらくれない。

 邪魔な夕日が消えていく。だから彼女の顔は見えづらくなっていく。このままもう表情がわからなくなってしまえば、僕はもう少し僕でいつづけることができるだろう。しかし目が気を利かせて君の表情を見続けられるように働いたら、もうどうなるかわからない。

 暗くなれ暗くなれ。街の灯りも点くんじゃない。デイライトが回路を繋げても、今の僕に灯りはいらない。


 目は気を利かせてしまった。

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