想定外
さて寝床から出てしばらく。コハクと僕は昨日金を漁ったところの近くにいた。
「なぁレンよ」
「ん?」
「早いうちに情報を集めて、情報屋に売るんだったか?」
「そうだね。彼らは新しい情報が欲しいだろうしね」
「そして情報屋が来るのはもう少し後だと」
「いくら何でも夜に移動はしないだろう朝に出てなるべく急ぐのかな」
「さてじゃあ聞こう。これはどういうことだ?」
コハクがやや顔を引きつらせながら聞いてくる。それに対し僕は
「どういうことだろうねぇ」
としか答えられなかった。
僕たちの見ている景色のむこうには、数は多くはない。多くはないがそれでもまぁ数十人の人 ―おそらく昨日から言っていた新しい情報を求める情報屋― がいた。
「さてレン。もう一度聞こう。これはどういうことだ」
「うーん...じゃあ僕ももう一度言おう。どういうことだろうねぇ」
もう苦笑いして返すしかできない
「...俺が思うにこれはそんなテンションで流していい問題じゃない気がするんだが」
「奇遇だねぇ...僕もそう思う」
「どうする?こんな無駄な掛け合いをしている場合じゃないと思うんだが」
「うん...でもとりあえずあの中に今から入るのはよそう」
「与えるものもないのにわざわざ信用に欠ける情報を買う必要はないと」
「うん。しかもあちらからすれば今このタイミングで見ない顔が情報を求めてきて、嘘を教えたとしてもばれないと考える。ガセの可能性は上がるし、金を節約したい今ぼったくりの可能性の高いところにつぎ込むわけにはいかない」
「正論だな。で、どうする?」
「とりあえず離れて金集め。同時に反省会。さらに考察。あとは予定の修正を考える。当初の最善策はもう取れなくなった。なら次善策だ。今までしなかったことをするんだ。ミスはする。それを減らすにはもうトライ&エラーを繰り返すほかない。でも同じエラーを多く繰り返す余裕は僕たちにない。一つのエラーから得る糧を少しでも多くするべきだ」
「これまた正論。とりあえず移動だな」
「ああ。その前にあそこの情報屋の特徴をここから見える範囲でいい。覚えよう」
「なぜ?」
「あれが最も早い情報を持つからだ。あとから聞くならより多い、正確な情報をもつ彼らがいいだろ」
「ごもっとも」
僕らは大まかな特徴だけ覚えてその場を去った。
で、離れたところで金探し。当然?この前みたいにポンポン見つかりはしない。
「なぁ。金の方もやつらがもうとってるってこたぁないよな」
「情報屋は情報で稼いでいるからそんなことはない。...と思いたい」
「いくら何でも希望的観測が過ぎるだろ。つい先ほど憶測が外れたばかりだぞ」
コハクが見るからに嫌そうな、大丈夫かこいつ的な目線を向けてきた。
「そっちこそ変なこと言わないでくれるかな...。ほんとに憶測を外してそうだ」
こちらとしては顔を引きつらせるしかできない。
「でもまぁ確かにまさか夜の間に移動してくるとはなぁ...」
「完全に想定外だったな...」
「さてレン。理由を考えようか」
「うん。まず夜に動くメリットは何だろう」
「そうだな...。正直夜のメリットはそう思い浮かばん」
「うん...。いや、逆転の発想をしてみよう」
「というと?」
「僕らが夜に動かないのは端的に言えば、盗賊やなんや、つまりは敵にメリットが多いからだ」
「まぁそうとも言える」
「ここで夜に動く方の視点に立ってみよう。そのメリットは?」
「なるほど。俺たちからすれば視覚情報が無くなるが、むこうからすれば昼より気付かれにくい」
「さらに寝込みを襲うなら当然夜。案外夜は危険だから寝るということだけ見てるともっともらしいが同時に睡眠という注意力が下がる状態にもなるわけだ」
「珍しく俺からも一点」
「別にコハクが何か思いつくのは珍しくは...で、なに?」
「前提条件として夜には戦線は寝床には来ない、ということがあるだろ」
「!確かに。そして実際そうだ」
「つまり夜の移動は戦闘に巻き込まれるリスクが少ないんじゃないか?近くを通っても戦線では照明弾なんかもあるとすると案外早く気付ける」
「おまけに移動先は人、つまりは夜のリスクである強盗なんかがいない!」
「考えりゃわかるもんだ」
本当にそうだ。少し考えればわかる。でも夜をデメリットとしている立場からすれば盲点になっていた。考えているようで前提が完全に一つの考えに固まっていた。多角的視点が欠けていたわけだ。
「とまぁ今更あいつらが夜に移動することとその理由がわかってもなぁ」
「いや、コハク、悲観しないでいこう。一つ一つ明らかにしていくことが後でいい結果を導くこともあるかもしれない」
「物は言いようってか?」
「自由に受け取ればいいさ」
「で、肝心の情報の対価はどうする」
「...今回は新しくはないが、重要なことに集中しよう。それならより多くの情報屋から少しは低コストで情報が得られるはずだ」
「そもそも受け取る情報を安いものにしようと」
「そういうこと。ま、それでも金はいるさ。探そうか」
「はいはいっと」
二人の終わりと世界の続き 桐谷海斗 @kaito-kiriya
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