待つもの
「おーおー、さすが、探すとこ探せば金は転がってるもんだね」
コハクが硬貨を拾いながら言う
「戦闘時間が短かっただろうことが幸いしたね。そうでなきゃもっと苦労しなきゃ見つからないよ」
「ごもっとも。上にある瓦礫やらなんやらどかさなくてもいいのはでかいな」
「さ、どんどん集めよう」
「でももっとこう...がばっと大きな額はないのかね」
「ありえないね」
素早くコハクの言葉を否定する。
「なぜ?」
「多くの金を集める者は正確な多くの情報と切れる頭、決断力を持っているからさ」
「つまり?」
「多くの情報から次の選択を素早く導き出し、行動する。いや、そもそも金持ちなんてのがいるのかも怪しい」
「いないわけじゃないだろう」
「考えてみろ。ここらの取引なんかほとんど金のないやつ同士で行われる。そこで金を集めるのは困難だ。品物を高く売るとだれも買わない、買えない。安くても多く売ろうとすれば売り物集めに多くの時間がかかり、売る前に場所を移ることになる。金を使わず貯めようとすれば必要な物、食い物を得られず死ぬ」
「なるほど、いづれもろくなことにならん、と」
「しかもそれができたとして、金を持てば当然狙われるリスクも上がり、さらにそれの運用でもしようなら移動が重くなる。当然機動力を失えば商売場所についていけないし、死ぬ。狙われるリスクへの対抗策、金を持ち続けるリスクを考えれば、この環境で多くの金を稼げる頭の持ち主が金稼ぎに走るとは考えにくい」
「なるほど。まぁでかいのには期待せずにいこうか」
「そういうこと。地道に地道に」
こうして俺たちは金探しを続けた。
日が暮れかけても町に人は訪れなかった。
「結局、だれも来なかったな。レン」
「そりゃまぁちょっと前までここでドンパチしてたわけだし」
「随分あっさり言ってくれるな。ほんとに近いうちに人来んのか?」
「さぁ」
「さぁ、っておま、おいおい」
「それはもう運の域だね。さっきも言ったけどここでほんの少し前までドンパチしてたんだ。もともと人の集まりにくい場所だ。戦線がまたこちらに来る可能性もある」
「なんでそんなところに留まるって聞くのはタブーかい?」
「どう動くにも結局運なんだ。なら入れ違いの可能性を減らしたい」
「随分消極的だな。悪いが俺は運勝負だから何となくでここにいますって理由で戦線に近い場所に滞在させられるのはごめんだぞ」
コハクの言葉にややいら立ちがこもってくる。そりゃそうだ。自分の命かける行動の理由が運100%なんていわれりゃ誰だって嫌だろう。が、
「もちろん運に賭けてって理由だけじゃないさ」
「その理由とは?」
「この状況から動こうとするとどうしても運の要素が強い行動にならざるを得ない。要はどう動こうにも運勝負だ」
「ならちょっとでも安全な方にベットしたいね」
「残念だけどこの状況ではどれが比較的安全かすら見極めるのは困難だ。だからあたりを引いた時に得られる利点で賭けるものを決めようというわけだ。どうせリスクがすべて同じならベターな選択だろう?」
「どれも得られる利点はほぼ変わらないと思うが?」
「ああ。そうかもしれない。でも、まったく同じじゃない」
「ほぼ同じならほんの少しだけでもいい方にいこうと」
「そういうこと」
「ここの利点は?」
「この場の利点にして欠点、それは何だと思う?」
「利点かどうかはともかく欠点は戦線が近く、いつカムバックしてくるかわからんところだな」
「そう、戦線におそらく近い。これが今、この場の一番の特徴だ」
「そんな特徴の場で留まり、人が来た時のメリットは?」
「戦場が近い、そんな究極ともいえるリスクの場に真っ先に来るような人間はどんな奴らだと思う?」
「死にたがりの大馬鹿野郎、後は今の俺らみたいに多くの物資を狙いに来るハイエナか?」
「もう一つ。最新かつ正確な情報を求める情報屋だ。戦線の状況、武器、その他さまざまな情報を早く、つまり戦線の近くで、正確に、つまり吟味の必要のない自分の目で、得に来るやつらだ」
「なるほどどうせ金を使うならいいところに払いたいもんな」
「そう。正確性のしれない情報屋もいる大きい母集団よりも、数は少なくとも正確な情報を持つ母集団に金を払った方が経済的で、こちらの考えることも余計に増やさなくて済む」
「確かにそいつはいい利点だ。問題はいつ来るか、か」
「もっと言えば本当にここに来るのか、だね」
「でもそれはどうするにも同じリスク、だろ?」
コハクがにやりと笑う。
「そういうこと。さぁコハク、明日から探すものを増やす」
「情報か?」
「ご名答。なんでもいい。情報屋が食いつきそうなネタを探す」
「そしてそれと俺たちの欲しい情報を交換すると」
「そう、たとえ信憑性に多少かけてもブラフを吹っかければどうにもなる。やつらはまずとにかく新しさを重視するはずだ。そしてそれをベースに正確性をあげていく。なら俺たちの話を聞くはずだ。複数人の人間に聞くことはむこうも承知だから下手な嘘もつけない」
「自分たちの与えるものは本当かかどうかわかりゃしない情報なのに求めるのは正確な入手の難しい情報か。レンよ、なかなかいやらしいことを考えるな」
「せっかくそれができるんだ。利用するしかないね。このご時世にこの状況で変な情けをかける理由はない」
「ごもっともだ。さ、日が暮れそうだ。今日はもう寝るか」
「あぁ」
こうして俺たちは今日一日の行動を終えた。
さぁ、考えることを考え出せている。ここで調子に乗らないことだ。完璧なように言っているけど最後は運だ。最初に情報屋が来るというのも推測でしかない。頼むからうまくいってくれよ。初手からずっこけまくりはごめんだ。
運命の歯車を動かし始めた。その駆動音は思考を加速させる。可能性を示し続ける。けれどまた、その音は焦燥や思考の方向の限定をも隠す。あぁ歯車が加速した時、いったいそれを格納する《もの》は、どこへ向かうのだろう。
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