Where are we now?

 翌日

俺たちは日の昇らないうちから移動を開始した。いつもならもう少しゆっくりするところだがどうも気分が乗らなかった。

「さーてじゃあレンよ、昨日の道を逆戻りといきますか」

「いや...昨日と同じ道を行っても人がいないのはわかりきってるんだ。別方向に行こう」

「その方向は?また勘で決めるか?」

「昨日の言葉を返すようで悪いけど頭を動かそう。いつまでも勘頼りじゃいつか飢え死にしそうだ」

「飢え死にしそうってのには同意するが...何か考えは?」

「なくはない...ってところかな」

「ほぉーお、聞いてやろうじゃないの」

「それより先に飢え死に対策といこう。せっかく最近まで町があったとわかってるんだ。漁ってこうぜ」

「ごもっともだ」


それにひょっとしたら...いや。そう上手くはいかないか...。ま、会えば根拠の補強になるくらいに考えとこう。


「おーおー、大漁だねぇー。おいレン、こりゃしばらくは飢え死にせずに済みそうだぞ」

「あぁ」

「?どうした。つれないな」

「コハク、この場所の特徴は何だと思う」

「特徴?俺にはそう違いは感じられんが...まぁマーケット付近漁ってる分軍の携帯食料は少ないか?」

「惜しい」

「惜しいって...そりゃどういう」


「あぁん?同業者か?って空腹のガキかよ。おいその場所明け渡せ」


もう口調からゴロツキですみたいなのが建物の影から現れた。予想通りというべきか逆に予想外れというべきか。どちらにしろ悪くない。

ゆっくりと立ち上がりながら言葉を放つ。

「おいおい、こういうのは早い者勝ちだろ?後からの奴が随分と偉そうだなぁ」

思わずうっすらと笑みがこぼれる。コハクが横で怪訝な顔をしているのがわかる。こんなやつさっさと逃げるか伸ばすかしないのかという顔だ。それなのに余裕ぶっこいて挑発してるように見えるのだろう。

「ガキが...」

明らかに血が上っている。こういうのを伸ばすのは簡単だ。予想通りで安心した。

「おいおい、怒ったんなら来いよ」

「レン!」

コハクが小声で制してくる

「問題ない。伸ばすぞ」


数分後気絶してきれいに伸びてる男を横目に予想が少しづつ確信に変わるのを感じていた。

「おいレン、さっきのはなんだ」

「弱いねぇ」

「あ?」

「こいつのことさ」

伸びてる男を足でつつきながら言う。

「確かに典型的な短気なザコだったが、それがどうした」

「なぁ、俺たちは勘を外して戦線方面に来てしまったはずだよな」

「あぁ。それが?」

「それにしちゃは弱すぎる。戦線近くをうろつくのはもっと強いし、賢いはずだ」

「泥棒なんざどいつも大差ないだろう」

「あるさ。一定以上離れたら確かに大差ないだろう。でも前線付近は違う。こんなに馬鹿で弱くない」

「なぜ言い切れる」

「じゃあここがまさしく戦線に隣接してて俺たちが武装してるはぐれ兵だったらこいつはどうなってる?」

「間違いなくミンチだな」

「そう。あっさり殺される。なのにわざわざ、背後をとっておきながら自分の存在を知らせるか?俺なら、コハクでもだろう、間違いなく逃げるか奇襲でさっさと片を付ける。おまけに倒せばめんどくさい捜索をせずとも死体を漁れば目的は果たせる。戦線近くでも生き残るやつは最低でもそのくらいはする」

「なのにこいつは馬鹿みたいに自分の存在を示した...」

「そう、つまりここはもう戦線から一定距離離れてるのさ」

「こいつがたまたま例外のアホという可能性は?」

「それがさっき言ってた特徴、および昨日の会話からも除外できる」

「さっきの特徴って...軍の携帯食料が少ないのがどうかしたか?」

「少ないのは携帯食料じゃない。兵士のそばによくあるスクラップがほぼないのさ」

「スクラップ?...なるほど。武器か」

「そう。ほんの少し前まで前線だったはずなのに武器がない。つまり携帯食料が少ないのはここがマーケット付近だからじゃない。ここは戦線に巻き込まれなかった、もしくは戦線だった時間が極端に短かったのさ。そもそもマーケット付近でも戦線に巻き込まれたならなかなかそうわかるもんじゃない」

「な...」

「それに昨日。コハクはこの町を見たことがあるといった。確かに見覚えがある。が、前線ど真ん中だった町がもう一度来て見覚えがあるとすぐにわかる程原形をとどめるか?ましてやこの辺なんか町の景色はそう差が出るものじゃない」

「それでレン、お前は移動しなかったのか」

「そう、だから俺は先に食料探しをしようといったのさ。さすがに前線のすぐそばでの食料探しをやろうなんて急には言わないよ」

「でも、なんで数日で戦線は移動した?いったい何があればそうなる?いくら何でも早すぎる」

「それは今の情報からは推測できない。―また金のかかる要因が増えたぜ」

自嘲気味に笑う。するとコハクも苦笑いしながら返してくる。

「情報屋からもらうしかない、と」

「そういうことだ。マーケットでコソ泥してる理由の一つだな。ついでだからその資金もいただくとしよう」

「了解」


さて、戦線で何があったかはなんとしても正確な情報が知りたい。あとは、各陣営の内部の動き、国の情報。何か付け入るところは。知りたい情報の優先順位を決めねぇとな。いったいどんだけ金がかかるか分かったもんじゃねぇし。

まさか金の価値が食い物を超える時が来るとはな。同等というときはいくらかあったが、こうも圧倒的に金の方が欲しいと思ったのは初めてだ。

考える。生き延びるために。さらに前線に近づいても死なないために、あの時決めたことを遂行するために。今、できることは。するべきことは。得るべき情報は。考える限りの最善策、できないなら次善策をとり続けるために。考え続ける。


「金の保存としばらくの住居を決めないとな」

コハクが廃屋を漁りながら話しかけてくる

「あぁ、まったく考えることが多くて困る」

「だから、頭の一番大事な部分を早く動かさないと、やってられんね」

「まったくだ。方法はお互い分からないんだけどね」

コハクと二人でやれやれと笑った。

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