動き出す体・止まった頭
「とはいいつつ、あいも変わらず探しているのは今日を生きるすべか」
コハクが苦笑いをしながら話しかける
「今日を生き延びないと何もできないからね」
「ごもっともだ」
俺たちは昨日過ごした廃屋から出た後現在地の確認と食料探しをしていた。現在地の確認といってもなんの予測もできないので適当な方向に歩いて町を探しているだけだった。
「それで、レンよ。町が見つかったらその後はどうする」
「基本は今までと変えないさ。今までのことに新たにやることを足すだけでね」
「俺が聞いているのはそれだ。何を足すのか」
「情報集め、武器集め、行動に計画性を持たせる。今思いつくのはこれくらいかな」
「また随分と簡潔に言ってくれる」
「武器なら今まで無視してきただけでいくらでも転がってる。性能は正規兵と変わらないさ。ただし前線の兵にも与えられるようなものだけどね」
「なる程な。食料と一緒に武器も頂戴しようと」
「そう。むしろ難しいのは情報集めだ。今までとは集める情報の種類と求められる精度が違う」
「戦線の進む向きに加えて内部の情報、状況も知りたいわけだからな」
「そういうこと。ま、焦っていいことはない。早くできることに越したことはないが確実に行こう」
「ああ」
「それに今はその町を見つけるのが先決だろう?」
「ごもっとも」
「こればかりは勘頼りだからな。どうしようもない」
そのまま探し続けるも太陽が低くなってきても見つからない。
「...まったくここまで見つからんとはな」
「ねぇコハク。人って一か所に集まると思う?」
「ある程度は。ただその場所以外はひとつの町もないってことは...」
ここでコハクは何かに気付いたように笑いながら言う
「なるほどどうやらとんでもない方向に向かってきたようだな」
「そう、ここまで見つからないというほど人は局地的に集まらない。つまり、人がいない要因があるんだ」
「戦線がこの方向にある、もしくはあったということか。まったく、ついてねぇなぁ。おい」
コハクが大きく息をはく
「今日引き返してもしょうがない。適当に寝床を探して明日から逆方向に向かおう」
こうして進んだ先にたぶんこれから前線が移れば町になるだろう場所に行きついた。ついたはいいのだがどうも変な嫌な感じがまとわりつく。でもわざわざ前線に近づいているのだからそうだろうと納得して進む。
「...レン。なーんか変な気がするんだが、気のせいと思うか?」
「気のせいではないけどそりゃそうだろう。前線に近づいているのはさっき言った通りだろ」
「いや、こう...ここ見たことない?」
「昔訪れたことがあるとか?」
「いや、違うね。...あぁほらやっぱりそうだ。来たことあるんだよ、昔じゃなく、最近な。」
「?」
「向こう見ろよ」
コハクの指さした方を見て一瞬。ようやく気付いた。
「今日はどこまでもついてねぇ」
コハクの言う通り。ついてるのかついてないのか。
そこにはあの日銃声がうるさいと見上げたあの景色が広がっていた。
「どうするレン。あそこへ向かうか?」
「いや...このあたりでも泊まれるところはある。わざわざ向かうことはない。今日はこの辺で泊まって明日早くから動こう」
「...そうかい」
「なあレン」
「なに?」
寝る前にコハクが話しかけてきた
「焦るなよ。そんで頭動かそうぜ」
「焦ってないし、動かしてるよ」
「いいや、止まってるな。レンは気づいてないかもしれんがお前は今日一日ずっとそうだ」
「焦ってたらこんなにゆっくりしてないし、思考が止まってたらもっと感情的に動いてたさ」
「な、気付いてない。なぁレン、人ってな焦るとどうしても思考が向こうを向きすぎるし、もっと焦って使命感みたいのが生まれると頭が止まっちまう。今のお前だ」
「どういうことだよ」
「言ってるだろ。今のお前は頭の大事なところが止まってる。俺も今気づいてしっくりきた。いつもならもっと周りが見えてた。泊まるところももっと早く見つけてた。人がおらず、町が無いことも気づくのが遅すぎた。あんなに無心で歩き続けてなかった。町の周りの風景が、町の中の風景がつい先日見たものだったことにお前、いや俺もか、まったく気づかなかっただろう。頭が動いてないんだよ。動いてるようにごまかしてるだけで、たぶん動かすべき大事なところを動かしていない」
「そう深読みしすぎてるだけだ」
ややイラつきながら返す
「いいや、事実だ。あの日あの光景で一瞬で頭が止まった。実際このざまだ。自分の場所を見失い、やるべきことを考えられず、重要なことに気づけずただ歩いてた」
「だったら?」
「落ち着け。もう一度頭を動かせ。動かせばあのくそみたいな最悪のことについても思い出し、考えなきゃいけない。それを怖がってるんだよ、今、俺たちは。それじゃあっさり死んでおしまいだ。だから頭を今度こそきちんと動かそうぜ」
「もう一日もあの事を考え、理解しただろう!頭は正常じゃなくても!それでも!動いてるだろ!」
「ほらな。だから落ち着けと言ってる。まだ止まってる大事な部分をうごかすんだ。言ったらケンカになるだろうと思った。でもこれはきっと言わなきゃいけないことだ」
コハクがマジの目で、顔で、静かに言う。
ここらでようやく自分がいら立っていることに気付く。何に対してかも分からずイラついている。そしてようやく多分それはコハクの言ことが図星だからということに気付いた。
「あぁ。...そうだなわかった。といってもどうすりゃ動くかわからんけどな」
謝るべきなのだろうが、どうも癪なので結局謝らなかった。それでもコハクは
「安心しろ。それは俺もわからん」
とそう言って笑った。
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