第4話 秀演
その往年のダビングされた映像に、かすかながら砂埃が舞っていた。
僕は椅子に座りながら、それを丹念に眺めていた。
映し出されるのは、誰とも知らない子どもたち。
もしかすると、この中に忘れかけていた思い出があったりするのだろうか。
肌の色さえ違うはずなのに、どこか見覚えがあるような気もする。
行ったこともないところだけど、知っているような錯覚さえしてしまう。
緑のやせこけた木々に囲まれても、何とも思っていないふうな顔をしていて。
ほんとうは、そんなことないはずだろう。
彼らのもといた環境を知らないか、もしくは忘れ去っていっただけだ。
瑞々しさの一歩外に出ると、すでに枯れ果てたような世界がそこにあって。
まるで、僕の住んでいるこの街のような景色さえ描き出されている。
人はひとたび生まれると、そこから周りにあわせるように生きていく。
それは、もはやいまとなっては当たり前すぎて誰も語ろうとはしない。
なんでもない映像が何かを訴えているとしたら、それはほとんどノイズだ。
ただ電気となって伝わっているにすぎない、ほんの些細な活動だ。
さて。
これまでに逢った人を数えてみると、ちょうど彼らと同じくらいになった。
そして僕は、どこにも行きたくなくなってしまった。
shu_en 01♨ @illustlator_msr
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