第三話 思い出 part3

この場所には何もない。光も音も感じない。でも明らかに暗い雰囲気を僕は感じ取る。

「それって一体どういことなんだよ」

少し威圧をして話した。そうすることによってこのチャラチャラした黒服の意見を変えることができるんじゃないかとかすかな希望を描いていたが、その希望はいとも簡単に砕かれる。

「あれ、理解遅れてきた?じゃあ、もう一回言いマース。」

咳ごみをして再び顔つきを整える。


「君は生き返るでも代わりにマイちゃんは死ぬ」

「なんだよそれ。なんだよそれ!」

込み上げたのは怒り。死神に対して、事故に対して、自分に対して。

「大体、あんたらが悪いんだよ。人の命をなにか一つのゲームみたいに扱いやがって」

「死の運命は変わらない。仮にも僕ら神様。

管理するのが人の生死なだけ」

表情を見る限りどうしようもないと言いたげだ。

「俺が死ねばいいんじゃないのか。それじゃダメなのか。なんでマイじゃなきゃいけないんだ。なんでだ、なんでだ、なんでだ――」

ゆっくりと力が抜けて行った。どれだけ叫んでも目の前の表情は変わることなく。前を向くのができなくなってしまった。僕の口が止まり、彼が話し出す。

「細かく説明しよう。僕らは死神。人間の生死を管理するのが仕事だ。そして死ぬべき人を確認し、その都度どう亡くなってもらうか各々考える。そして本来生きるべきであった記憶を貰って生きていく」

さっきは聞こえたはずの声が聞こえない。何かわからないノイズ。森の中を掻き分け出口を探すのにどこにも光が差さない。

「今回の場合は交通事故。しかしここで想定外の事態だぁ。ヒロ君が想定外の行動に出てしまった。大抵の人間は硬直して動かないところを君は動いてしまった。これはこちら側のミスだ。故に何かしらの償いをしなくてはならない」

パチッ

急な音で意識を取り戻す。

「はい、ここからが重要。」

なにも考えられなくなった脳みそを起こす。

「ということなんでマイちゃんにも生きていてもらいます」

「えっ」

二度目の衝撃。ただでさえ眠った脳が追い付かない。

「但し、死の予定は変更できない。そこで君から代償を貰うよぉ。」

「代償?」

「そう、こればっかりはどうしようもない。何かを得るための対価だ」

「前置きはいい。早く教えてくれその代償っての」

少し焦っていた。死の運命。それも彼女の死の運命を変えられる。そんな方法があるなら全てをかけてでも知りたい。

「君の記憶。マイちゃんとの思い出を貰う」

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