第二話 思い出 part2
ふわふわした気分。浮いているんだろうかと思ったが足は地面についている。いや嘘をついた。本当はどちらが上でどちらが下なのかもわからない。それでも僕は立っていた。何も無い。何も聞こえない。今立つ大地に触れてもまったく感触が無い。
「そうか、僕は死んだのか。」
誰が聞くわけでもなく独りでに呟いた。
それにしてもおかしい。どうしてもここはどこかと考えてしまう。真っ暗ではない。しかし決して明るいわけではない。天国というには実に寂しく、地獄というには実に平和だ。
「どんな感じする?」
背後から声が聞こえる。振り返ると其処に人はいた。僕と同じ人間なのだろうか。顔は普通の男性。整った黒いスーツ。黒いネクタイを身に着けていた。その姿を見たとき僕の中に微かながら嫌な予感がした。
「まだ生きてる感じする?ヒロくん。」
「なんで俺の事。」
「それよりも聞きたいことたくさんあるんじゃない?」
完全にアタリだ。でも何から聞けばいいか思いつかない。
「うーん。まず君にはこれを言わないとね。君と一緒にいたマイちゃんは生きてるよ。」
「本当ですか?」
喜びが込み上げたと同時に悟ってしまったこともあった。
「君が考えている通り僕は死神なんですよねぇ。」
薄くそれらしきものを感じ取っていたがやはり再確認すると驚いた。僕は死んだんだ。でも後悔はしてない。自分の好きな人を守って死ねたのだから。
「あともう一つ。君は死んではいないんですよねぇ。」
「へ?」
何を言いているのか理解できなかった。と同時にここが一体どこなのか最初の疑問が蘇ってきた。
「話すことがたくさんあるから順を追って説明させてもらうから。」
ペースを向こうに取られている。まあいい。そのほうが混乱せずに済む。
「まずここは天国でも地獄でもありません。」
「ああ。」
「ここはねぇ。その境目。」
「はぁ?なんだそれ。」
「つまり、本来は死ぬべきじゃなかったんだけど、手違いで死んじゃった人。つまり保留中だということだ。」
なんだその適当さ加減は。しかしわかったこともある。
「つまり俺は生き返る可能性があるってことか?」
「君、理解がいいねぇ。」
死神はグッドサインにウィンクをした。死神という言葉からは想像し難いフレンドリーな雰囲気を醸し出す。
「じゃあ俺はいったいどうしたら生き返るんだ?」
和むと同時に少し焦りが出てきた。
「まま、そうせかせず。」
「急がないと。今すぐにでも会いたい人がいるんだ。」
「大丈夫だって。ここでの時間はそっちではあんまり関係ない。たぶん今は車に轢かれて倒れてるあたりだぁ。」
「じゃあなおさら早く戻んないと。」
「だからそう焦らないで。それにまだ言ってないことがあるんだ。」
急にフレンドリーなスーツ男が真剣な雰囲気を出し始めた。
「確かにヒロ君。君は死なないよ。生き返ることになった。多分事故が起こる少し前くらいに戻る。理解できる?」
理解できる。誰も傷つかない。僕は何もなかったかのようにマイと過ごせる。でもこの言葉に嫌な予感を覚える。いいニュースの後は悪いニュース。悪い胸騒ぎ。そしてその胸騒ぎは当たる。
「死ぬのはマイちゃんだ。」
音も景色もない空間。その言葉ははっきり聞こえ、死神の姿ははっきりと写った。
続く
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