第一話 思い出

雨だった。日は沈んだばかりで足元が悪かった。天気予報では晴れであったが午後になって雨が降り始めてた。いくら精度が上がっているとはいえ外すこともある。朝の天気予報を恨むのはやめよう。そう自分に言い聞かせていた。善人になりたいとか心から美しくなろうとかそういうことを言っているんじゃない単にデートの途中でマイに苦虫を噛んだような顔を見られたくないだけだ。そう、今日は一時からマイと会いデートであった。別に等に変わったことはやらなかった。遅めの昼食を摂り、ウィンドウショッピングに。夕食はどうするかという話になったがレポート提出の日がちかいからまた今度一緒にしようという考えにまとまった。その帰りである。一応車の免許を持ってはいたが彼女を乗せてドライブするのは少し怖かったので退いてしまったのが悪かった。コンビニで二本傘を買い二人並んで帰る。ほんとは一本でも良かったがそこまで勇気が出なかった。マイは何も言わなかった。

「ねえヒロ。イライラしてる?」

「え、してないけど。」

「嘘、雨降ったからイライラしてるでしょ。」

きっぱりと当てられてしまった。

「なんでそう思うの?」

「そこ。」

マイは僕の眉間を指さす。

「ヒロは嘘つくときそこにしわがよる。」

そんな癖があったのか。マイは相変わらず鋭い。僕よりも僕のことについて知ってるかもしれない。

「マイには敵わないよ。」

「わかったかな?だからマイお姉さんには隠し事はなしですよ。」

マイは僕より一つ年上である。でも僕があまりにもそれを感じさせないためたまに自分でアピールしてくる。

「了解しました。」

「了解は敬語じゃないでしょ。」

「細かいな。」

「文句は言わない。」

「承知しました。今後マイ様には文句を言いません。」

「ちょっと待って。嘘もつかないでよ。」

「必要ですか?」

「ひつよう。それとも嘘ついちゃうの?」

上目づかいで僕を見る。観念した。

「はい、嘘もつきません。」

「よくできました。」

マイは僕の頭を撫でるために背伸びをする。ちょうどマイとの顔が目の前に来る。なにか仕掛けようとしたが考えるほど恥ずかしくなりなにもできずその瞬間は終わった。彼女は満足そうな顔だ。僕自身撫でられている間に微かな幸福を感じていた。

「なあマイ。」

「なに?」

「ありがとな。」

「何急に?」

「俺今幸せだと思った。」

「私も。」

「だからありがとう。俺の傍にいてくれて。」

マイは薄く笑う。

「俺の傍って。当たり前じゃない。だって私が…」

そのとき車の音が近くで聞こえた。キキィっという感じに車が僕らの方に揺れながら近づいてくる。あとでわかった。雨でスリップした車がこっちに向かてきたんだと。その時感じたのはこのままいたら死ぬ。本能だったのか反射的なのかわからないが傘を捨て、マイの方へ飛びかかった。マイを押し飛ばし、さっきマイがいた場所に自分がいた。この人を守らないと。そう思ったとっさの判断であった。そこからは全てがスローモーション。いや、映画のフィルムを一枚ずつ見ている感じだ。僕は彼女が轢かれてはいないと信じた。そしてそのフィルムは知らず知らずのうちにブラックアウトした。

続く

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