第7話猫は知っている final
「藤田さんが購入されたキャットフードは安売りしてあるものだということがわかりました」
「そんな、だってわたしは、、、まさか。」
「はい、あなたは騙された。これも調べたんですが、あなたが購入したキャットフードはあなたが購入された翌日ごろ粗悪品であったということがメーカーから発表されました。しかしあの店は値段を下げることによってそれをだましだまし販売していたんです」
「なんてこと、そんな」
「もちろん許されたことではありません。しかしあの人物は別の罪も犯していました」
「別の?」
「窃盗です」
「窃盗?」
藤田は腑に落ちぬ様子だった。
「はい、あのペットショップに訪れた際に監視カメラの映像をいくつか頂きました。その映像には途切れた部分が存在していました。あまり経営状況がいい店ではないのでしょうか。お客が訪れた場面が少ないです。
そしてちょうど店員がいない時間帯と藤田さんが散歩に行っている時間帯が一致しています」
「そんな」
「藤田さんは物忘れが出てきたのではなく。盗難を受けていたのです」
沈黙。無理もない。猫探しが発展してこんなことになっているのだから。
「でもそれを幸か不幸か目撃したものがいました」
「いったい誰が」
「猫です」
「ねこ?」
「はい、あの猫です。ここからはあくまで予測ですが、盗難があった日に猫は藤田さんのお宅に来ていたのでしょう。犯人は物音か何かが聞こえた際に物を投げたりなんかしたのでしょう。衝動的に。それが当たり、目元に傷ができた。そして傷のついた猫を藤田さんは発見し、我々に猫探しを依頼してきた」
「・・・」
驚きというよりは諦め。この人たちには全てばれているんだという諦め。
「藤田さんが最初我々の事務所にやってきて人数を確認したのは傷をつけた人に発見されたくなかったから。傷のことを教えなかったのは私たちが聞き込みの時に言いふらすのを防ぐため。でも藤田さんは一つミスを犯してしまいました」
「ミス?」
「猫を呼び戻すための餌に粗悪品を使ってしまったことです」
「はっ!」
息を吸うように驚き固まる。
「あの猫は傷を受けた状態でも藤田さんの家を訪れた。そして餌に口をつけてからいなくなった。猫を見つけてから少し不安でもあったので獣医のところにまで持っていったんです。すると下痢に似た症状を起こしているのがわかりました。キャットフードを食べたせいでしょう。」
「・・・」
「わかりやすく猫の動向についてまとめます。猫は普段からあなたの家を訪ねていた。窃盗に遭っているあなたを知っていた。ある日いつものようにあなたを見に来るとあなたはおらず、犯人だけがいた。その姿を見られ攻撃を受けた。それでも後日あなたの家に訪れた。
少し弱ってもいたのかあなたの用意した餌を食べた。すると猫は体調を崩し、そこを去っていった。
これは猫にとっての絶望でした。そして二度とここに戻ってくることはなかった。これがこの事件の全貌です」
藤田はなにもいわず斜め下を向いていた。長谷川はただ藤田を見つめている。なにかを言いたいのか。それは仲上の想像しうることなのか。ただ彼はまっすくと彼女を見ていた。
沈黙の中でそれぞれがそれぞれのことを考える。仲上が沈黙に耐え切れず口を開いた。
「藤田さん。もしまた猫といたのであればまたあなたにーー」
「結構です」
仲上の言葉を叩き落すかのように藤田は言った。目には涙を浮かべている気がした。
「あの子ねぇ、私はあんまり、好きじゃなかったんです。でもねぇ、毎日毎日私の家に来て、私のことを見て去っていく。毎日毎日」
その言葉をまるで祈るかのように唱える。
「だから、ご飯をあげようとしたんですけどどうにも、懐いてくれなくてね。もし言葉がわかれば、一言だけでも伝えたかったですねぇ」
一章エンド
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