第6話猫は知っている part6
次の日、藤田さんの家に訪れていた。
「よし、行くかマモル」
「嫌です。」
「はぁ?」
「仲上さんには全てを話しました。あとはお任せします」
「この期に及んで何を」
「僕は他人と話したくありません」
頑固な態度。なんだかイライラしてきた。でもここで喧嘩をしても仕方がない。ここは仲上が一歩退いた。
「わかった。でも中には付いて来いよ。お前の推理なんだからな」
目を細くして長谷川は頷いた。
ピンポーン
{はい}
「仲上探偵事務所の仲上です」
{はい、今開けます}
話は通してある。あとは推理だけだ。
「失礼します」
部屋の奥まで連れていかれ、向かい合うように座った。少し遅れて長谷川が付いてきた。
「今日は猫捜索について現在の状況を説明しに参りました」
「あの子は見つかったのですか?」
唐突に質問を投げかけてくる。それに対して仲上は動じることなく返答した。
「はい、見つかりました」
「本当ですか。はぁ、よかった」
「しかし、あの猫はもうあなたにはなつかないかもしれません」
「え、それって、どういう――」
「我々の推理をお話しします」
風で近くの木々が擦れ合うのが聞こえた。それは外の静けさを感じさせた。
「まず藤田さんあなたは普段あの猫に餌を与えていなかった。しかし最初出会った辺りは与えていた。違いますか?」
「どうしてそれを。」
「藤田さんの家に訪れた時、普段から可愛がっている猫に対しては、当たり前のように餌をあげているものだと考えていました。しかし、あなたの家にあったのはキャットフード一袋で、しかももっとも安いもの。だから我々は、最初なにかしら藤田さんにやましいことがあり、それを隠すために猫を探しているんだと考えました。」
「そんなこと――」
「わかっています」
藤田が声を荒げようとするのを空かさず止める。
「藤田さんが餌を買いに行ったペットショップの映像を調べました。すると、そこには急いで餌を買う藤田さんを見つけました。しかし、フードボールは購入されている姿は拝見できませんでした」
藤田が少し驚いた表情を浮かべる。フードボール。わかりやすく言うとペットに餌をあげる際に使う、皿のようなものだ。
「通常餌を買う際フードボールも買っていたほうが便利だと考えます。しかし藤田さんはそれをされませんでした。だからてっきり、家にあるお皿を使用するのかと思ってしまいました。けれどあなたの家にはフードボールに盛られた餌がある。そして我々が出した答えは、藤田さんは何度かあの猫に餌をあげた経験があり、それを一度やめておられることです」
沈黙が流れる。藤田もなにも言わない。いやなにも言うことがないのかもしれない。ただ明らかに長谷川の推理は、今のところ的中している。話しているのは仲上だが。
「このことから藤田さんが猫を可愛がっていたのは事実です。しかしなんらかの理由からそれをしなくなった。では次は猫について話したいと思います」
藤田はさっきよりもいっそう強く仲上を見つめる。その熱心さに、仲上も少しばかり引けを感じてしまう。でも全てを伝えなくてはいけない。
「猫を見つけたのはお話を伺いに行った後、すぐです」
「じゃあなんでお伝えいただけなかったのですか!」
「さっきも申し上げたように、我々は藤田さんに少しながら疑念がございました。そして発見された猫は、目元に傷を負っておりました。
故に我々が保護するという形をとりました」
藤田は口をすぼめてこちらを見てくる。
「あの猫は言わば野良猫です。野良猫ゆえに決まった行動パターンを持っていました。朝昼と、どこかで人間から餌をもらい、歩き回る。藤田さんの家に行っていたのも、その行動パターンの一つだと考えます」
いったん沈黙が流れる。
「猫の傷と行動パターンについては、後々詳しくお話いたします。ここから先は、キャットフードについて話をさせてもらいます」
続く
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