第4話 猫は知っている part4
ガタンという音が中から聞こえた。恐らく今ソファーから降りてドアにある曇りガラスの近くに来たのであろう。聞いているなら問題なし。
「まず最初の違和感は、藤田さんが事務所に入られた時でした。あの人は事務所に入り、そこに所属している人数を最初に尋ねました。そこで一つ思ったのはこの人は、依頼内容をあまり口外したくないんだと。でも蓋を開けてみれば猫探し。寧ろ人数が多い方が都合がいいはずです。」
ドアの向こうからまたガサゴソと音が聞こえる。おそらくドアの向こうは聞こえが悪いのか試行錯誤しているのだろう。まあいいや。
「もう一つ、依頼人は探している猫の名前を言いませんでした。猫探すのだから名前を教えないのはとても違和感でした。最初はやましいことがあるために名前を隠しておきたいのかと考えていましたが、自宅訪問によりその謎は解決しました。名前を言わないのではなく、言えないのだと。」
「なにそれ。」
小さな声がドアの向こうから聞こえてきた。
「仲上さん、何か言いました?」
「あ、シーン。」
あくまで仲上は聞いていない設定らしい。
「。。。とりあえず続けます。猫の名前においては、藤田さんの自宅での証言が関係あると思います。藤田さんは猫がたまに来るとおっしゃっていました。これは事実、もしくはその日に偶々来たものと考えられます。しかしあまり可愛がってはいなかったでしょう。もしくは何とも考えていなかった。」
事務所のドアはガラス窓になっているのだが、そこに仲上の顔が透けていた。そんなに気になるなら出てくればいいのに。気にするな推理を続けよう。
「これにおいては置いてあった、餌が関係あると思われます。」
「餌だって?」
また口を挟んでくる。この人は本当に無視しているつもりなんだろうか。
「猫が来るようにと盛っていた餌なんですが、公園に来る途中のショップで特売されているものでした。さらに、餌の中でも安めのやつです。毎度その餌をあげているということも考えられますが、藤田さんの話からすると猫をとても可愛がっていたように振舞っています。それなら、一番安い餌をあげているというのは違和感があります。そして大切なのはその量です。」
「量?」
扉の向こう側から完全に会話に参加している仲上を無視した。
「藤田さんの家を見る限り、餌の袋は封を切ってある一つだけでした。ゴミ箱も確認しましたが、以前にも購入したような痕跡はありませんでした。これらのことを考慮に入れると。」
「考慮に入れると?」
「猫には何かしらの秘密があります。顔の傷跡も含めて。藤田さんはそれを隠しているということです。」
「なるほどなぁ。」
よし、このままこのへそ曲がりを畳み掛けよう。
「まあ長々と話しましたが、これも全部仲上さんが藤田さんの家に堂々と上がり、いろいろと話を聞いてくれたおかげです。ありがとうございました。ですが、まだ不確実なことが少しあります。それを明らかにするには仲上さんの力が必要不可欠です。ご協力のほどよろしくお願いします。」
少し、いやいや、かなり強引に結びつけたがこれで機嫌を直してもらえるといいんだが。
少し沈黙が続く。
「ふふふっ、仕方ないなぁ。マモルがどうしても、俺がいなければ小便ちびるほど何もできなくて俺がいないと夜も眠れないというのなら、手伝ってやっても構わないこともないこともないけどねぇ。」
仲上の頭にはどこから持ってきたかわからないようなギラギラに輝くハット、ラメの付いたサングラスを着けて出てきた。
「まあ、そういうことでいいです。」
さて調査を続けよう。
「わからないのはこの猫に何があるかです。」
「そうだな。早く行こう。」
「仲上さん。」
「何だ?」
「責めてその服は着替えてください。」
仲上の服には大きく「猫の手も借りたい」と書いてあった。
続く
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