第12話 夏の夜空を見上げて思うもの
花火開始のアナウンスが流れる――。
一発、二発と光の筋を残しながら空高く打ちあがり、夜空に光の
涼太はその最中、ふと隣の二人に目をやる。楽しそうに口を開け、声を漏らす梨奈の
花火も中盤に差し掛かり、大玉がテンポよく上がり続け、より大きく弾けて消えていく。振動が伝わるほどの迫力とダイナミックさに歓声の色も変わる。
梨奈は両サイドの二人に交互に目を向けた。子供みたいに目を輝かせながら花火が上がる
花火も最後のクライマックスに差し掛かり、連発で空に打ちあがっては次々に光の花を咲かせ、観客の目を
陽子は誰しもが花火に目を奪われている中、隣に座る二人に視線を移す。二人は同じタイミングで歓声を上げたり、声を漏らしていた。そんなお似合いの二人から視線を外し、自分の心中を
「いやあ、花火最高だったな」
涼太が座ったまま、腕を上げ伸びをしながら言う。
「ほんとにねー。今年はいい場所でゆっくり見れたし、文句の付け所もないね」
梨奈が足を伸ばしながら答える。
「だろー? だったら、もう少し俺に感謝してもいいんじゃね?」
「はいはい、涼太のおかげで今年はとても楽しめました。ありがとうございます」
梨奈が感情のこもっていない
「陽子は楽しめた?」 「陽子ちゃんは楽しかった?」
と、同時に陽子に声を掛ける。陽子は戸惑った表情を浮かべるがすぐに笑顔を作り、「うん。とっても」と答えた。
花火が終わったことで会場から帰るために
タイミングをずらしたことで人波に飲まれることなくすんなり
そして、会場から一番近い陽子の家に向かう。陽子の家の玄関先で別れ、陽子は
涼太と梨奈は今日のことを振り返りながら会話に花を咲かせ、連れ立って梨奈の家に向かった。梨奈の家の玄関先で、涼太は梨奈の母親に甚平のお礼をいい、洗濯し乾燥までしてある元々着てきた服の入った紙袋を受け取り、
「それじゃあ、今日は本当にありがとうございました。おやすみなさい」
涼太が頭を下げると、
「いいのよ。写真はプリントできたら梨奈から渡してもらうわね。それじゃあ、おやすみなさい」
と、梨奈の母親はいつもの柔らかい笑顔で小さく手を振る。
十数メートル歩いたところで、後ろから聞き覚えのある玄関の開く音が聞こえ、
「ちょっと待って! 涼太!」
と、梨奈に呼び止められる。涼太は足を止め、梨奈のほうに向き直る。
「どうした? 何か用か?」
「用ってほどのことじゃないんだけどさ……」
梨奈は言葉を選んでいるのか言いよどんでいるのか、言葉を詰まらせる。涼太は梨奈が続きを切り出すのを静かに待つ。
「なんか今日の陽子、ちょっと様子おかしくなかった?」
涼太は今日の陽子を思い返す。確かに言われてみればと、思い当たる節があった。
「確かに……でも、それは体調悪かっただけかもしれないし……」
「そうなんだけどさ……陽子、最近あんまり元気ないというか……なんか悩んでるというか、そんな感じなのよね」
梨奈と涼太は同時に黙り込む。
「この前の盆踊りの日に、陽子から電話あってさ……進路のこと相談されたんだけどあれかな?」
「俺も同じ日にその相談された」
「えっ、涼太も!? じゃあ、もしかしてまだ進路悩んでるのかな?」
梨奈は不安な気持ちから、視線を落とす。
「そうだとしてもさ、どんな進路を選んでも応援するし、もしも違う学校だからって急に友達やめるとかじゃないわけじゃん?」
「そんなの当たり前じゃん!」
梨奈はきっと
「だから、今は陽子ちゃんの選択を見守るしかなくね?」
「うん……そうね。そうする。なんか呼び止めちゃってごめんね」
「いいってことよ。じゃあ、またな」
涼太は自分の家のある方に向き直り歩き出し、梨奈も自分の家に向かった。
そして、三人は家に帰り、自分の部屋の窓から見える空にそれぞれ胸に秘める思いを
「きっと私がデネブだったんだ……」
涙を
「炭酸みたいに、私のこの気持ちも抜けてなくなってしまえばいいのに……」
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