第三幕 夏の夜空を見上げて思うは炭酸水
第一部 夜空に伸ばした手が掴みたいのは
第5話 盆踊りはハードな社交場
「
「はい、わかりました」
呼ばれた場所でテントの鉄骨を組み立て始める。辺りは鉄骨が当たる
今日は住んでる地区の自治会主催で
中学生になってからは、手伝いという身分でありながら戦力の
今は何かしている方が気が
進路――生まれてからずっと古い街並みを残すこの街で育ち、大げさでなくここに住む人ほぼ全員と顔見知りで――
ただ、
それはきっと幼馴染の
「お疲れ様でーす! 婦人会からの差し入れです。本番前に
まだ明るさが残る夜六時過ぎ、婦人会の一団が大量のおにぎりやいなり寿司を手に差し入れにやってきた。その差し入れに、準備が一段落し、疲れた顔をして談笑したりしていた男達が
俺はというと、差し入れの受け取り競争に出遅れてしまい、大人気ない大人達を後ろから眺めていた。
「あんたも差し入れ食べなさいよ」
と、ふいに梨奈に声を掛けられた。梨奈は
「ありがとな。その様子だと梨奈も手伝いに借り出されてたの?」
と、似合わないエプロン姿の梨奈を見ながら尋ねた。
「そうよ。なんか文句ある?」
梨奈は少し
「ねえよ。そのへんはお互い様ってもんだろ」
「それもそうね。昼過ぎからずっと差し入れの準備と打ち上げ会場の集会所の
「それはお疲れ様。こっちも半分は手を動かさず口を動かしてた大人達の代わりに準備に走り回って、もうバテバテ。この上、さらに
手に持ったものを落とさないように気をつけながら大げさに肩をすくめてみせる。一瞬の沈黙の後、顔を見合わせて
「で、
「飲み物のやつ」
「ああ……それは、ご
梨奈が横でかわいそうな人を見る目で見つめてくる。それも仕方のないことで、中学生未満は飲み物は無料で飲み放題なので群がってくる。そのなかで中学生以上からはしっかりと代金を取らなければならないし、さらにお酒もあるので未成年に売らないように気をつけなければならない。毎年、苦労が絶えない
去年までは、群がる側だったからこそ
「あっ、そうそう。涼太、今年の夏祭りは誰かと行く予定あるの?」
梨奈が思い出したかのように尋ねてくる。
「今年はまだなんの話もしてないし、今のところ誰かと行く予定はないね」
「じゃあさ、今年は陽子入れて三人で行かない?」
「わかった」
「それじゃあ、日にち近くなったら時間とかの連絡するね」
梨奈は笑顔を向けながら、約束だからねと念押しする。そんな梨奈とのやりとりに大人達が生暖かい視線を送ってくるのを感じる。梨奈もその視線を感じたようで、顔を赤らめながらすっと立ち上がり、差し入れを配る手伝いに戻っていった。
少しの休憩の後、盆踊りの準備はラストスパートを迎える。建てたテントの中に大型のクーラーボックスや鉄板を設置し、飲み物や食材の準備を始める。本部テントには音響機材なんかが持ち込まれ、
日が暮れていき、会場はライトで明るく照らしだされた。そして、まばらに人が集まりだしてくる。
顔馴染みの大人からは「手伝いしてえらいねー」と声を掛けられ、近所に住む小学生達からは「涼太兄ちゃん、飲み物さっさとくれよー」とせっつかれた。その合間を狙ってやってくる同年代の知り合いからは「色々と大変だな。まあ、お疲れ」と気を遣われた。
しばらくすると、交代するから休んでいいと言われ、クーラーボックスから冷えた炭酸飲料を一本取り出す。そして、会場裏手の人がいない場所に移動して座り込み一息ついた。盆踊りの音楽に混じり、楽しそうな声が反響して聞こえてくる。
持ってきた炭酸飲料のプルタブを開け、一気に三分の一ほど乾いた喉に流し込む。爽やかな喉越しに今日一日の疲れが取れる気がした。大人にとってのビールはこんな感じなのかなとぼんやり考える。そして、休憩といってもやることがなく夜空を見上げる。
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