第15話 そして太陽はまた昇る
「なんていうか、進歩ないよね二人共。もう何度目だと思ってんのその流れ。その度に里の皆が巻き込んで迷惑かけて、表面上は反省するけど根っこのとこは全然変わってないからすぐまた似たような騒動起こすんだよ。それを100年以上も繰り返しって学習しないにも程があるでしょねえ聞いてんのマキア兄」
「すいません」
ミルミスの説教を前に、俺はただ謝るしか無かった。
周囲には小気味良く鉄床を叩く音が響き渡り、裁判官の鳴らす槌を思わせる。赤茶色の煉瓦作りの室内は炎の熱と鉄の匂いで満たされ、オレンジ色に鈍く揺らめいている。そんな中で反論しようのない正論に打ちのめされていると、地下牢で神父に罪を告白する罪人のような気分になってきて、なんとも神秘的な気配すらしてくる。
現実にはデカい青ゴリラが身の丈半分も無い年下を前に頭下げて縮こまってるだけなのだが。
バルディール城下町の一角にあるドノヴァン鍛冶工房。
ダンジョンを抱える城塞都市であるバルディールでは武器防具の需要が絶えることがなく、鍛冶場を始めとして、革、装飾、塗り、木工、研ぎ、素材調達等々、あらゆる類の職人がひしめき合って店を構えている。その中でも老練のドワーフであるドノヴァンが取り仕切るこの鍛冶工房はバルディールでも指折りと言われ、ドノヴァン当人の腕は勿論のこと、彼の長い職人歴の中で培ってきた顔の広さと人望の高さによって形成された、各種職人集団のレベルの高さが自慢だとか。
必然、この工房に弟子入りを希望する若者も大勢いて、それこそ門前市を成す勢いらしいのだが、その大半はこの工房で要求される技術水準を満たしておらず、適当にあしらわれて追い返されるらしい。
そんな中、ある日何の気負いもなくふらっと現れたダークエルフが「弟子にしてください」と言ったところで、まあまともに相手にされるわけもない。しかし結果として今現在ミルミスはこの工房で世話になっている。煙たがられている様子もなく、どころか自分より遥か年嵩の職人達に鉱石の目利きを相談されたりもしているようだ。
ついでに親方の娘さんとも着実に仲が進行しており、ドワーフ特有の赤い髪と瞳と、エルフの母親譲りである長い手足と顔立ちを持つ一人娘のエリスさんを溺愛している親方は気が気ではなく、日々落ち着きを無くす一方らしい。
正面切って否定されてない辺りは親方もミルミスを認めていない訳ではないらしく、つまり俺の弟分は順調に人生のコマを進めているという訳だ。そしてそんな人生順風満帆な弟分を前に、やらかし青ゴリラの俺はただ申し訳なさそうに身を縮めるしか出来ないのであった。
「まあ結果として二人とも無事だって言うならもういいよ。……里一番の暴走機関車コンビがそんな目に遭うって、バルディールのダンジョンってそんな厳しいとこなの?確かにウチに来るお客の中でもダンジョンに潜ってる人は、皆ひと目で分かるくらいの強者だけど」
ダンジョン内部の詳細、特に「何が棲んでいるか」についてはダンジョンを管理するバルディール公から守秘義務を課せられているので、ダンジョンに潜る資格のある冒険者以外には漏らせない。だからミルミスにも『ダンジョンの魔物が強敵だった』くらいのことしか話していない。
「……そうだな、厳しい所だよ。ただ強いだけじゃどうにもならない世界もあるんだって思い知らされた。久々に壁ってやつを感じたよ」
「それで実力不足を感じて武器なんか作ろうと思ったわけだ。……珍しい、って言うかこれは今まで無かったよね。『ゴルヴァ流は無手が信条、得物なぞ
「や、ちょっと今回は事情があってよ、あんまりのんびりもしてられないっつうか」
「マキア兄、なんか隠してる?」
まずい。
ミルミスの瞳が蒼く光り始めた。
この世界におけるダークエルフというのは、エルフよりも更に自然と精霊に近い種族だ。生来扱える魔力量もエルフを遥かに凌ぐ。その一方で、魔力を扱う術式やそれ以外の
そのためダークエルフは先天的に膂力・体格・身体能力を有して生まれてくるんだが、極稀にそういった獣性を一切持たず、代わりに並外れた感覚能力と神懸り的な直感を有した個体が生まれることがある。それがミルミスだ。ウチの里でこの特質を持つのはミルミスだけで、コイツの勘の良さはマルダ婆の折り紙付きだ。ミルミスが「何かある」と感じたなら、それはほぼ間違いなく何かあるということなのだ。
「―――。」
「……。」
何も言えない。
「嘘はつけない」とお互いが分かっているのだから、その上でなお誤魔化しをしようとするのは信頼を損ねるだけの行為であり、ミルミスに対する侮辱に他ならない。
「ねえ、マキア兄」
「うん」
「マキア兄が何かを隠してるのは知ってる。僕にもリミ姉にも、里の大人達にも、ゴルヴァ爺やマルダ婆にすらも、それどころか生みの親であるアマテラさんにまで、ずっと何を隠してる。ひょっとしたらマキア兄本人も自分で気付いてないのかもって、里で一緒に暮らしてるときからずっと思ってた」
「……それは」
それは俺自身ですら、ようやく最近思い出せた事だ。
記憶を取り戻したのがつい先日のことだから無理もないが。
「そして、その隠し事があるからマキア兄が頑張ってこれたのも知ってる。それがあるからアマテラさんのスパルタ教育にも、ゴルヴァ爺さんの気分で内容決めてんじゃないかって感じの無茶な修行にも、マルダ婆さんの陰湿な試練にも耐えてこれたんでしょ」
「思い出させんなよ泣きそうになるから」
やれ『8歳になったお祝いに晩御飯はファングブルの丸焼きにしますので自分で狩って来なさい』だの『崖から落とす岩石の中から印の付いたものだけを壊せ』だの『森で指定の材料を採取して毒薬を調合し自分で飲んで耐性を付けるついでに毒の種類も当てろ』だの、あの人達は教育というものを何だと思ってるんだ。
「だから、今さら何を隠してるのかなんて聞かない。きっとそれはマキア兄にとって大事なことなんだと思うから。けど、これだけは分かって欲しい」
「……なんだよ」
「マキア兄にとって、その隠し事は全てじゃない。守らなきゃいけないものは、それだけじゃない筈だよ」
「それは」
反射的に声を荒げそうになり、かろうじて踏み止まれた。
ミルミスの言う通りだ。
俺は、この世界に明確な意志と目的を……いや明確かって言われると未だに俺は目標の正体すらちゃんと確信できてはないんだけど、それでもそこに辿り着くために生まれてきた。この星の自然の成り行きだけで生まれてきたわけじゃない。そのために今日まで鍛錬も積んできた。けどその120年間は、決してそれだけじゃなかった筈だ。
俺は120年もこの星で生きてきて、ようやくそんな事に気付かされた。
それも年下の弟分にだ。
「……そうだな、ミルミスの言う通りだ。情けねえなあ、俺は。図体だけは一丁前でよ。そのくせ肝心な事は人に教えられてばっかりだ」
「マキア兄」
「誓うよ。無茶はしないし、あいつにもさせない。必ず帰るべき場所に帰ってくる」
「……うん、それが分かってくれれば充分だよ。じゃあそのためにもこのナックルを仕上げないとね」
「おう、ところでこれナックルって割には妙に軽いというか、単純に装甲薄くね?」
「うん、ただ
そこまで説明した所でミルミスが急に固まった。顔をあらぬ方へ向け、ダークエルフの中でも一際長い耳をピンと尖らせ、その先端を小刻みに震わせている。
やばい。
ミルミスの蒼い瞳が直感の光だとすれば、長い耳は感覚のアンテナだ。
ミルミスがこの仕草をする時は、直後に何かが起きるということ。
今気付いたんだけど特徴を総合すると猫っぽいなこいつ。
「マキア兄」
「うん」
「ホントに何やったの」
「うん?」
直後。まず衝撃が先に来た。
そして一瞬あとに音が来た。
一言で言うと、『大爆発』である。
地の底から突き上げられたような衝撃に体が一瞬、宙に浮く。
空間そのものを埋め尽くすような轟音が工房の空気を震わせた。
「きゃああああああああああああ!?」
「お嬢さん伏せて!」
ちょうど俺達にお茶を持ってきてくれていたエリスさんが、持っていた盆とカップを取り落として倒れ込む。咄嗟にミルミスが落下物からエリスさんを守るべく覆いかぶさった。
「うおおおおお何だこれ地震か!?」
「いや違うよマキア兄、さっき一瞬感じたあの気配は……!」
工房内の職人達も手を止めて何事かと様子を伺っているが、慌てふためいたりはしていない。流石にこの辺は年季の差か。
かつての日本での経験から、この衝撃ならしばらくは揺れると思ったが予想より遥かに早く揺れは収まった。継続的な振動というよりも単発のインパクトであったらしい。あまりの衝撃にまだ怯えているエリスさんをミルミスに任せ、俺は状況を確認するために外に出た。
街路には俺と同じように何が起きたのかを確認すべく外に出た人達が溢れ、俄にざわついていた。何人かが城塞の方を指差しており、火事だなんだと騒ぎ立てている。見ると、確かにもうもうと炎と煙が立ち上がっており、市街巡回中だった城塞騎士団が即座に市街の被害状況と城塞への救援に動き出している。
しかし俺はそんな状況の中で、一人冷静を取り戻していた。そして頭が痛くなっていた。あの黒煙に見覚えがあったからだ。
ようやく落ち着いたらしいエリスさんの肩を抱きながらミルミスが外に出てきた。言われるまでもなく城塞の方を見て、ミルミスが心底うんざりしたように吐き出す。
「マキア兄、爆発の前にも感じたんだけどアレって……」
「ああ、間違いねえよ。お前の感覚通りだ」
「記憶違いでなければ、あの時よりも威力上がってるように見えるんだけど……」
「まあ、人は成長する生き物だからな……」
事情を知る関係者二人が天に立ち上る爆炎を見上げてため息を付いていると、奥で作業をしていたドノヴァン親方が愛用のバトルアックスを手に飛び出してきた。
「おい若造、なんじゃいアレは!城が燃えとるではないか!」
「ああ親方、確かに燃えてますけど大丈夫ですから落ち着いて」
「何が大丈夫なもんかい、あの時もそうやって皆油断しとったから大惨事になったんじゃ!この『鉄壊のドノヴァン』の名に掛けてもう二度とあんなことは繰り返させんぞ!こうしてはおられぬ、すぐに陛下をお助けせねば!」
「はいはいホントに大丈夫ですから、親方は僕と一緒にエリスさんと工房を守りましょうね」
「何が一緒にじゃ、工房も娘も儂一人で守りきれるわ儂はまだ錆びついちゃおらんぞというかお前は何さっきから肩抱いとるんじゃ儂はまだ、儂はまだ認めらんぞ……」
城への忠義と家族への愛情で板挟みになった親方が、ミルミスに工房へと押し込まれていった。まああの分なら大丈夫そうだな、色々と。それにしても……
「あのバカはホントに何をやらかそうとしてるんだ……」
◇
「ついに!」
右手を天に掲げ、左手に魔杖を振りかざす。
「この日が!」
ジャンプして空中で二回転、片足で着地して鶴のように構える。
「来たわね!」
アン・ドゥ・トロワと軽やかにステップを踏み、ローブをはためかせて華麗に舞う。
「ハイパー美少女超絶天才空前絶後のプリティエルフ、リミリディア様復活の時が!」
両足は肩幅に、右手を目にやり横ピース。ズバーッ!とSEが鳴りそうなパワーで魔杖をこちらに向かって突き出す。
以上、リミリディアさんの華麗な復活記念ショーでした。
会場はここ、バルディール大城塞ダンジョンの入口前。
観客は私ダークエルフのマキアに、
「のう
「なんですかラーシャさん」
「あやつは左脳を丸ごと全摘出でもしたのかや?脳の病気がそこまで進行しておったのか?」
「残念なことにアレでリミリディアさんは至って健康であらせられます。私が知る限り風邪を引かれたこともございません」
「なるほどのう、納得じゃ」
「フッフーン!何やら心無い罵倒が聞こえるけれど今の私にはまるで響かないわ!このデリシャス美少女究極超人驚天動地のキュアキュアガール、リミリディア様の心にはね!」
「……これは素で言うのじゃが、本当に大丈夫なのかこやつは」
「大丈夫か大丈夫じゃないかで言うと、半々」
「半分も大丈夫なのかや、これが」
「まあ」
実際、このイカレポンチ超テンション状態になっているということは、一応思いつきは成功したってことらしいからな。壁にぶつかる度にこうなるのでいい加減慣れている。
「おい小娘」
「なによ狐っ娘」
「ただのヤケクソで開き直っておるならこの場に置いてゆくぞ。足手まといを飼っておる程、余裕はないのでな」
若干、空気が凍る。それは間違いなく本気の言葉だったからだ。
しかしリミはその脅しに少しも動じなかった。
「まあ前回が前回だったからそう言われてもしょうがないわ。けどね、負けっぱなしをそのままにしておくほど、私の心は広くないの」
口元は柔らかく自身に満ちて微笑み、目には意志の輝きを宿す。
いつも通りの、乗り越えた時のリミの表情だった。
「行こうぜ、ラーシャ。多分大丈夫だ」
「……主がそういうのなら。それではどう変わったのかを見せてもらおうかの」
前回のように罠を安々突破して、再び地下二階への階段前。
リミだけじゃない、俺にとっても今回は雪辱だ。
二度とあんな無様を晒すまいと、決意を込めて階段を――
「あ、準備するからちょっと待って」
降りようとした所でリミに止められる。
「なんじゃ、現場を前にしてかつての恐怖がぶり返しでもしたのかや?」
「準備だっつってんでしょーが、いいからそこで止まって。絶対にそこから下に降りないで。あと集中するから声掛けないでね」
そういうとリミは一歩前に踏み出し、俺達全員の前に立つ。
魔杖を胸に抱え、先端に取り付けられた紅の魔石を額に押し当て、何かを詠唱し始めた。ややあって詠唱を終えると、今度は魔杖を前方に掲げ、ゆっくりと息吹を魔石に吹き付け出した。今まで一度も見たことのない魔術儀式だ。
息を吹き付けられた魔杖から赤く輝く光の粒子が放出され、風に乗るように階下へと注がれてゆく。
「……ふう、オッケー。もう降りてもいいわよ」
「なあリミ、今の何だ?新しい魔法だよな今の」
「まあそれは見てのお楽しみってところね」
意気揚々と階段を降りてゆくリミを追うように、俺達も階段を降りてゆく。
前回とはまるで逆の構図だ。
階段を降り切り、二階へ降り立つ。
……いる。
流石に前回全滅させたせいか数は少ないが、それでも充分な数の気配を感じる。
たった一月でここまで増えるのか。
自信満々のリミを中心に円陣を組み、油断なく周囲を警戒しているとやがて一匹のレッサーが暗がりから歩み出してきた。全員が素早く迎撃態勢を取る。
「……何やら様子がおかしいの」
「本当だ。なんか弱ってるのか?」
前回は獲物を見つけ次第、ケダモノのような動きで飛びかかってきたが、今回はただヨロヨロと歩くだけで、攻撃の意思すら感じられない。
「うーん、多分熱いんでしょうね。この辺がどうなるかはやってみないと分かんなかったけど、なるほどこうなるのか」
リミが一歩前に出て、恐れる風もなく興味深そうに観察する。
「この弱ってるのがさっきの魔法の効果なのか?」
「まさか、これはただの副作用よ、本番はこれから。じゃあ見ててね?」
言うとリミは弱ったレッサーに向かい手を掲げ、パチン!と指を鳴らした。
「へびゃあ!!」
籠もるような鈍い爆発音と共に、レッサーが体内から炎を吹き出して爆散した。
「え?」
何だ今の。
指を鳴らすだけで相手が爆発する魔法?そんなんあるの?怖すぎない?
驚きもつかの間、同じように弱ったレッサーがよろよろと数匹歩み出てきた。
「よーしよし、満遍なく行き届いているようね。それじゃあ前回の屈辱、存分に晴らさせてもらうわよ!うりゃうりゃうりゃー!!」
どごんぼごんばうんぼごんべごんばがんずどんばぼん。
多種多様に鈍い爆発音を立てながら、レッサーが次々爆散していく。
リミは次から次へと踊るように指を鳴らし、魔杖を振り、拳を突き出し、指を突き指している。要するに爆発の合図は何でもいいらしい。
あまりの虐殺、あまりのワンサイドゲームっぷりに完全に呆気に取られていた俺達だったが、ややあって正気を取り戻す。
「おいリミ、なんだこれ。何がどうなってんだお前何やったの」
「んー、簡単に言うと、粒子状に細かくした火炎魔法を空気中に散布したのよ。地下の密室であるダンジョンだからこそ出来る魔法ね。勿論この粒子をただ吸い込んだだけじゃ体が熱くなって弱るくらいだけど、術者の私が合図をしてその粒子を活性化させて、体内の可燃性物質と結合させればボン!ってわけ」
あまりにもサラッと軽く言うもんだから一瞬普通のことに思えたが、冷静に考えて背筋が冷える。一体何を開発しとるんだこいつは。「マスタードガス」という単語が脳裏をよぎる。
「ひぎっ、ぎゃひぃ、ひゃぎゃああああああああああああああああああ!!」
何もしてないし何もされてないのに仲間達が次々爆発炎上していく悪夢のような状況に、レッサー達は完全に恐慌状態へ陥った。体内から炎上し、それでも死にきれず仲間に助けを求め抱きつき、抱きつかれたレッサーも合図を送られるまでもなく炎上する。病魔のように感染拡大していく火炎地獄だ。
「いやー予想以上の効果ね!これで魔力消費は
「え、これだけの効果でそんなもんなの?でもお前こないだ城塞で爆発事件起こしてたよね?」
ぎくり、と声に出しそうな勢いでリミが固まる。
「……見てたの?」
「見てたもクソも、街の方にまで衝撃が響いてきたぞ。あんな大爆発起こす魔法がそんな軽いのか?」
「いやーアレは……最初はトリガー無しで自動発火する魔法だったんだけど、空気にも可燃性物質があることを忘れてて……危ない所だったわ。自然の力って凄いわね。でも今は大丈夫!私のトリガー無しに燃え始めることはないから!」
ごうごう燃えるレッサー達とダンジョンを背に、手をひらひらさせながらケラケラ笑うリミ。
もはや戦闘どころではない状況だったが、未だ燃えていないレッサーの割合は5割近くに昇った。しかしこれだけ派手に炎上されてはとどめを刺しに行くことも出来ない。
「うーん、なんか面倒になってきたわね……もういいわ、まとめて起爆させちゃいましょう!」
「えっおいちょっとまてばかそんなことしたら」
「主、なにしとるはよこっちゃ来い」
呼ばれて振り返ればラーシャはホルンを盾にしながら既に階上へ退避していた。
「それじゃいくわよー!『
「だからちょっと待てアホーーーー!!」
リミの詠唱と同時にリミの体を脇に抱え、階段に向かって
階上のホルンの背中に飛び込むのと同時に二階にいた全てのレッサーが起爆、二階フロアが一瞬にして高熱で包まれた。その結果生じた凄まじい爆風と爆音はそのまま俺達のいる場所まで駆け上り、パーティ全員の意識を漂白した。
「全員無事かやー、点呼、いち!」
「に」
「さん……」
「よん!」
「よし、一応全員無事なようじゃの」
「お前なー!このダンジョンそのものを爆破する気か!?」
「えへへへへ……まあでもなんとかなったからセーフってことで」
「セーフじゃねえよバカ、ギリッギリだったじゃねえか!」
「ぶいっ」
「ブイじゃねえ!」
顔面すすだらけでVサインをキメるリミを前に、俺はあの時の事を鮮明に思い出していた。
◇
あの日、マルダ婆の魔法試験の日。小雨が降り出した夜の森で、半泣きになりながらも諦めようとしないリミに、俺が適当に「そんな数撃ちゃ当たる戦法じゃ無理だって、もっと一発一発を大事にしないと」というアドバイスを出したら、それでリミは
何かが吹っ切れたと言うか閃いたと言うかバカになったらしく、残りの全魔力を振り絞って眼前一帯を薙ぎ払うような広範囲魔法を即席で編み出して展開、見事印のついた10本の木全てに魔法を命中させたのだ。まあ着弾範囲は10本どころでは済まなかったので森はちょっとしたボヤ騒ぎになったのだが。あの時雨が降ってなければ一体どうなっていたことか。
炎上する森を背景に、里の大人達に二人並んで絞られている時、リミがこっそりこちらに向けてきた笑顔とVサインは今と寸分違わぬものだった。
あの笑顔を見た時、俺はなんとなく「こいつにはこれからもずっと手を焼かされるるんだろうな」と実感したのだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます