貴方無月
辺りは春から一つ季節が移ろう途中––––––––
気付くと辺りは見慣れた公園だった。
顔を動かさなくとも全体を見ることが出来る程度の小さな公園だ。
小さい割に、中心には大きい滑り台が仁王立ちしている。大きいというより、広い。滑り台の上に小学生を横一列に5人並ばせてもまだ余裕がある程に広い。
どうやってここまで来たかは覚えていない。傘を肩で支え、外出するような服ではないだぼっとした上着と足首までのスウェット、サンダルにくるぶしソックスというオシャレとは言い難い格好をしていた。跳ねた水滴がスウェットに飛び、接着剤のように肌に張り付いている。
公園の入り口に置かれたレンガの花壇。そこに雫を垂らす群青色の紫陽花。出来るだけ見ないようにしながら中へと入った。
貴方と逢えない違和感を拭いさろうと入ったはいいものの、ここに一人でいるせいで違和感は消えるどころか、増していくばかり。
いつだったか。降り注ぐ雨の中、貴方はこの公園に咲いている白色の紫陽花に見惚れてた。
私が、青い紫陽花の方が綺麗、と言うと貴方は優しく目を見つめ微笑んだ。
貴方と肩を寄せて過ごした季節が一番好き。貴方と花を愛でるその一瞬が欲しい。
貴方と手を握り歩いた夜道、一緒に見上げた夜空、貴方のシャンプーと草木の匂いがせせらぎのように頬を撫でた湿った夜風。
何度巡ろうとあの夜が好きだろう。
傘を傾け雨を受けた。蒸し暑いのに雨は冷たい。
花には冷たさや温かさが分かるのだろうか。
体を寄せ合う紫陽花を横目に置き、違和感を肩に乗せ、公園を後にした。
貴方といた日々は短く終わり、貴方のいない日々は長く続いていく。
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