第十六章 使命(4)
四
ユキは、ワーズたちに大きな声で呼びかける。
「みんな、そろそろ時間だから、国連本部ビルに向かって」
すると、【rumor】がユキに訊き返す。
「揃っていない仲間たちは、どうするんで?」
「杏ちゃんと私で探すわ」
「探すって、この広いマンハッタンをどうやって? 探しているうちに【bad!】たちと鉢合わせしたらどうするんで? あいつら、ET見たら放っちゃ置かんでしょう」
「それでも、何とかしないと……」
「みんなで手分けして探しましょうか」
ユキは少し考える風だったが、やがて難しい顔をして首を振った。
「ミイラ取りがミイラになったら、余計に事態が悪くなるわ。私たちだけで何とか探すから、あなたたちは先に会場に行っておいて。あ、それから会場近くに【bad!】たちが待ち伏せしているかも知れないから気をつけて」
「分かりました。じゃあみんな、行こうか」
【rumor】、【information】などが立ち上がった時、近くにいた【
「それでユキさん、今回は大丈夫なんですかね? この間みたいにわざわざニューヨークまで無駄足踏まされて……みたいなことには、まさかならんですよね」
ユキの表情が一瞬ゆがんだ。
「こ、今回は、万三郎が演台に立つから……」
「へええ。本当に大丈夫なんですかねえ……」
いったんうつむいた顔を上げ、ユキはワーズ皆に宛てて訴えた。
「みんな、今回は後がないの。失敗したら世界が滅ぶわ。世界の運命はあなたたちKCJワーズ社員の肩にかかってるの。だからお願い、タッチ・ハート作戦に全力で挑んで」
苦し気な表情を浮かべているのは、【irony】の皮肉によるダメージだけではないようにも思える。すがるようなユキの言葉に、何人かの素直な連中は頷いた。だが、【irony】はあらぬ方向を見たまましれっとうそぶく。
「全力で挑めと言われても、日本からニューヨークまで飛んでただでさえ疲れているのに、ここから国連まで歩かされた日にゃあ、全力出しても、知れてるわなあ、みんな。歩かされりゃあねえ」
ユキは一瞬凍りつき、それから腕を組んでため息交じりの苦笑いを浮かべた。
「分かったわ。ついて来て」
ワーズたちは桟敷を下りるユキに従う。
「タクシー!」
手を挙げてイエロー・キャブを止めると、運転手に「国連本部ビル」と告げ、傍らの【irony】に十ドル札を二枚握らせた。
「これ、お札の形にした私のエネルギーよ。まったく、ETのエネルギーでタクシー移動なんて現金なものね。国連まで一キロちょっとしかないのに……」
「こりゃ助かります、ボス。おいみんな! 全力で挑もうな」
ユキは次々とタクシーを止め、お札を手渡し、ワーズたちを乗せては送り出した。
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