第十三章 選別(17)

十七


 スピアリアーズのシートレを追うように、みどり組のシートレが連なっていく。


 それを見送る祖父谷が、みどり組の誰にともなく言う。


「真似しやがって……まあ、劣ったお前たちにふさわしい行動だけどな」


 その時、前を飛んでいた方のシートレが、スローモーションでパアーンと弾け飛んだ。爆発というより、途中、二か所でちぎれたと言った方がふさわしい。


 クラフトマン島田が首から下げていた双眼鏡を借り受けて、シートレの行く末を追っていた奈留美が素っ頓狂な声を上げた。


「まあ、どうしましょう!」


「奈留美、貸してくれ!」


 肉眼でも異変を見て取った祖父谷が、奈留美から双眼鏡を奪い取るように取り上げ、起こっていることを確認する。


「あああ……」


 祖父谷は双眼鏡から目を離すと、その手をぶらりと落として、膝から崩れ落ちた。


「祖父谷、貸して!」


 万三郎は祖父谷が力なく持っていた双眼鏡を取り上げて覗いてみた。


 スピアリアーズのシートレは空中分解して、各部品が放物線を描くように落下し始めている。その少し上方を、みどり組のシートレが力強く通過していった。


 プラットホームに江戸ワード駅長のアナウンスが流れる。


「スピアリアーズの編成ミスは二か所や。【to】は必要、【at】は不要やった。対するみどり組のシートレには編成ミスはあらへん。よって、第二問は、みどり組の勝ちや」


「……」


 勝ちと宣言されても、万三郎もユキも杏児も、その場にじっと立ち尽くしていた。三人とも同じことを考えていた。


――スピアリアーズの【at】が不要って、“reach at Shibuya”の【at】か。こっちは、“arrive at Shibuya”だったけど、【at】の要不要についてまで考えてもみなかった。というか、そこまで考える時間がなかったんだ。うちのシートレがミスなしなのは、ラッキーだっただけだ……。


 モニターには、正解が表示されている。スピアリアーズ担当のシートレの正解は、やはり【to】は必要で、【at】は不要だったのだ。




“He texted me asking where I was, so I replied to him I was reaching Shinjuku station soon.”




みどり組担当のシートレの正解は、飛んで行った通りだった。




“He texted me asking where I was, so I answered him I was arriving at Shinjuku station shortly.”




 とても喜べるような勝利ではなかった。


 もしみどり組に割り当てられたシートレが、【arriving】ではなく、【reaching】だったなら、やはりスピアリアーズと同じミスをしたかもしれない。万三郎がふと傍らを見ると、祖父谷が膝を折って顔を手のひらで覆っていた。そこへ京子と奈留美が寄ってきて、祖父谷をいたわるように両側から屈んでいる。


「祖父谷……」


 万三郎がつぶやくように声を掛けるが、祖父谷は顔を上げない。


「祖父……」


 もう一度声を掛けようとした途端、京子がキッと万三郎をにらんだ。


「ちょっと! そっとしといたってんか。可哀想やろ」


 万三郎は当惑した。これではまるで俺がクラスの女子を泣かしてしまったみたいになっているではないか!

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