第十三章 選別(13)
十三
“What? Are you gonna sue me? Well, then, let me say this. Look, I was warned by your manager that I should be careful for being possibly wooed by you because...because with your visa expiring at the end of next month, you were so desperate to get a Japanese spouse so as to be qualified as a permanent resident”(7)
何編成かのシートレがチンステのスリットから出ていく。そのワーズたちが、将也氏の口から反撃に出た。「夢飛行」のママが将也氏に忠告していたと聞いて、楊さんは先ほど以上に顔色が変わる。そして彼女は何か言い返そうとして激しく咳き込んだ。
「落ち着いて。お茶、どうぞ」
そこは日本語で将也氏が楊さんに言う。楊さんは咳き込みながら頷いて、真里菜が入れてくれていたお茶を飲んだ。将也氏は落ち着いてそれを見ている。形勢はがぜん将也氏、ひいてはみどり組に有利になっているように見えた。
「今までそんな予兆まったくなかったのに、急に咳き込んだ。きっとスピアリアーズが、時間稼ぎのために楊さんのフラッフィーから脳に信号を出して痰を絡ませたんだわ」
ユキも万三郎も杏児も、モニターを食い入るように見ている。
「連中、慌ててるんだ」
“What are you talking about? That’s impossible! How dare you say so?”(8)
楊さんの口をついて出た言葉を聞いて、万三郎は寂しく笑った。
「取り乱してる」
万三郎のその言葉通り、楊さんは机をバンと叩いて前のめりになって将也氏をなじり始めた。すでに論理的な話し合いではなくなりかけている。
「ソンナ、ショーコ、ナイヨ!」
おぼつかない日本語で楊さんは反抗し、将也氏も日本語で対応した。
「ママは証人に立ってくれるよ。それにDNA検査をしてもいい。けど、妊娠も嘘なんだろう?」
「ウソ、ナイ! アナタ、ウソツキ! ケッコン、ジム、アルヨ!」
楊さんは膝を立てて将也氏に迫る。
「ジム?」
「ギムでしょ、義務」
三人は斗南を見やった。この場はおそらく将也氏の勝ちだろう。だがもうこれは、試験というより茶番になりつつある。
将也氏が困った顔をしたその時だった。
玄関の引き戸のカギは開いていたようだ。カラカラカラっと軽快にドアが滑る音がした。
楊さんも、将也氏も、驚愕の顔を浮かべたまま、その場に凍り付いた。
「お、奥さんがテニススクールから帰って来たか!」
みどり組の三人は息を飲む。もちろん、モニターで見る将也の顔は完全に引きつっている。だが、あまりのことに動きが取れないでいる。そしてそれは楊さんも同じだった。
「ただいま」という声は聞こえなかった。だが明らかに誰かが靴を脱いで、スリッパに履き替えて、今、廊下を渡ってくる……。わずかな床擦り音が応接間の障子の外で止まった。
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