第十二章 騒乱(3)
三
司会者は、新入会員の紹介へとプログラムを進めた。【autophagy】(自食作用)や、【obesity】(肥満症)、【mammography】(マンモグラフィー)、【Ebola disease】(エボラ 出血熱)、【Zika fever】(ジカ熱)ほか、十人ほどのワーズが壇上に招かれ、それぞれ短い自己紹介をして会場から歓迎の拍手をもらっている。
中でもひときわ大きな拍手をもらったのは、【iPS Cells】(人工多能性幹細胞)だった。短髪でメガネをかけた理知的な紳士が「よろしく」と挨拶すると、会場は割れんばかりの拍手に包まれた。
乾杯の音頭を【Minister of Health, Labour and Welfare】(厚生労働大臣)が取って、会はビュッフェスタイルのランチョンとなった。
【hospital】会長に促されて、三人は料理を取りに並ぶ。三人の頬に刻銘はなく、胸元には金色の鴨の社章が輝いているので、前後のワーズたちはすぐに、彼らが、先ほど会長がスピーチで言っていたETであることに気付いた。
「あっ、ETの方々!」
「えっ? ほんとに?」
前後の男性ワーズたちが驚き、次に畏敬の眼差しで握手を求めて来る。その都度三人は手にした皿を片手で持ち直し、もう片方の手で握手に応じるのだった。愛想笑いと会釈で彼らをやり過ごすものの、そのうち、三人が並んでいるところに、列に並んでいない女性のワーズたちまで二、三人で寄って来ては、「すみません、写真、いいですか」と言って、三人のETを左右から挟むようにしてスマホに向かってピースをするのだ。
「すみませーん、イチ足すイチはァ……?」
三人はひきつった愛想笑いをカメラに向けるしかなかった。
「済んだ? じゃあ次、私たち、お願いします」
「その次は私たち、お願いします」
「ちょっとあなた! 順番ですよ。私たちが先に並んでいます!」
女性ワーズたちを交えての撮影会は、ETたちが料理に並んでいる間、十五分間ほどひっきりなしに続いた。
ユキが女性ワーズに込み入った質問をされて料理台から離れられないところを無情にも見捨てて、万三郎と杏児は、すでに冷めた料理を皿に、ようやくテーブルへと戻ってきた。今度は飲み物を取りにテーブルを離れようとしたのだが、その矢先、万三郎が呼び止められた。
声の主は、太ったシャツの、ネクタイが苦しそうな男性で、彼はしきりに首筋の汗を拭きながら万三郎に語りかけた。
「あー、初めまして、私、代謝症候群【metabolic syndrome】と申します」
杏児は万三郎を見捨ててドリンクコーナーへ向かう。その後ろ姿を恨めしく思いながら、「あ、これはどうも」と万三郎は仕方なく挨拶を返した。
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