第七章 ワーズ(二)(6)



 万三郎も杏児もユキも、一様に目を丸く見張り、口が半開きになった。


「そ、『その頃から付き合ってた』って、今も付き合っているんですか」


 ユキの問いに【be子】は「ええたぶん」と柔らかく答える。


「あたしは、まだ終わってないと……思うわ」


「たぶん思うわって、そんな曖昧な……」


 呆れるユキに代わって杏児が問う。


「ですが、【be子】会長は昼間、助動詞の中でも【do麻呂】先生だけは嫌いだと言ってたじゃないですか」


【be子】は前を向いたまま、かぶりを振った。


「杏ちゃん、研修室でのやり取りは、演技。芝居よ。少なくともあたしはね」


「芝居ィ? すごくリアルに嫌っていたように見えましたけど?」


 【be子】は杏児の方を見てウインクした。


「杏ちゃん、女って、嘘が上手いのよ。杏ちゃんも万ちゃんも、気を付けることね」


 そう言われた二人の男は、【be子】を挟んで思わず顔を見合わせ、それから揃って杏児の向こう隣に座っている、ユキの顔を見た。ユキはきまりが悪そうにコホンと言って下を向いた。


 杏児が【be子】に訊く。


「でも、なんで演技を……?」


「新渡戸部長があそこにいたからよ」


「はあ……」


「あたしたちの関係、会社にばれたくないの」


 ユキが自分の手帳を開いたまま、新聞記者のように手にしたペンを立て、すかさず突っ込む。


「関係がばれたくないって、【be子】会長! あなたは昼間、西園寺六姉妹は交際し放題だと、部長の目の前でおっしゃっていましたけど?」


 【be子】は平然と頷く。


「ええ、あたし、【be子】を除いてはね」


「それは、どういうことでしょうか」


「会社には、あたしは、六姉妹の中でいちばん貞操観念の強い女で通ってるの。そのイメージを崩したくないの。それに……」


「それに?」


 【be子】は、ペンを手に、あまりに爛々と目を輝かせて質問してくるユキを見て、ふっと笑いかけてから口を尖らせ、声を低くして言った。


「書かないでよ」


 ユキはハッと気がつくと、手帳を閉じ、ペンを置いて苦笑いした。


「すみません。そんなつもりじゃあ……」


 【be子】は笑って頷いて、答えを続けた。


「――それに、妹たちならともかく、『あたしは他の男と遊び歩いてます』なんて、好きな男の前で自分から言うと思って?」

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