第四章 研修(15)
十五
“Hi, guys! How’s it going? I’m Wazuki, Wazuki Kai.”
日焼けした小麦色の肌。番手の大きい、粗い綿の、ゴワゴワしたワンピース。しかも緑と赤基調の、大きなハイビスカス柄のノースリーブ。そして紫外線のせいか
「口語英語表現を担当する、甲斐和月よ。趣味はダンスとテニスとゴルフとスノボとスキューバと、ジムで汗を流すこと。ショッピングと海外旅行、ドライブも好きよ。好きな食べ物はシュラスコ。お酒は焼酎からコニャックまで何でも。今ハマっているのは、信玄亡き後の武田勝頼の領地マネジメント戦略の研究、それからバナナムシの飼育かしら」
万三郎にしてみれば、この派手な人がKCJの講師とは、にわかに信じられなかったが、ラジオのDJのような軽快なトークと、英語のカッコイイ発音は、こちらもテンションが上がる。だが、いったいこの人は、森羅万象を深く考えているのか、表面的で刹那的な快楽指向の生きざまなのか、人物像がよく分からない。
“Now everyone, let’s get started learning spoken English with me!”
彼女はそう言うと、まるでプロのDJよろしく、自分に許された時間の尺をギリギリまで使い切って、これからCMに入るかのように、隣の中年男性講師に順番をバトンタッチして、教壇の向こうの方に退いた。
次に登壇してきたのは、口髭を蓄えた、おそらく五十代くらいの男性講師だ。彼は、別に足が不自由でもないのに、ステッキを片手に教卓まで進むと、教卓の縁にステッキの柄をひっかけた。大正か昭和初期を思わせるレトロな三つ揃えのスーツで、ウエストコートのポケットから懐中時計のチェーンが覗いている。
彼は、かぶっていたハットを教卓の上にパサリと置いて、権威主義的な咳払いをしてから、自己紹介した。
「ゴホン、えー私はもっぱら、文語英語を担当分野として教壇に立っておる、
そこまで言うと片井先生は、黒板に向き直り、受け皿から、今しがた弾丸として使われて残り少ないチョークを一本探し当て、『みどり組』やら何やら、万三郎が書き残したチーム名候補を避けるようにして、大き目の字で板書し始めた。無言の中、カッカッと黒板の音が威圧的に響く。途中、力が入りすぎるのか、二回チョークが折れた。
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