第四章 研修(14)

十四


 初めて三人の意見が合った。万三郎が新渡戸に確認する。


「あの……、古都田社長は昨日、『みどり組』にしなさいと」


「あ、そうだったかね?」


 ユキがまた立ち上がって言う。


「私、みどり組も、ぜったい嫌です!」


 もう反射のように、杏児も立ち上がって言った。


「僕も嫌です。もっと洗練されたチーム名がいい」


「ふん、杏児とやら、あなたが洗練されないと名前負けするわよ」


「な……なんだって! このアマァ!」


「私の名前はアマではありません、ユキです。一分前に教えたことを忘れるなんて、相当頭悪いわねー。私がいなければ、ミドリムシーズがふさわしいチーム名ね」


 万三郎も立ち上がる。


「ちょっと、ユキ! なんで俺も巻き込むんだよ!」


「まあまあ三人とも」


 ほうぶん先生が苦笑しながら両手をひらひらさせて、三人を宥めた。


 ユキが新渡戸部長に訴える。


「普通、チーム名なんて自分たちで決めさせてもらえるものではないのですか」


 新渡戸はユキを見て、それからほうぶん先生を見る。


「三人仲良く協力し合い、知恵を出し合って、良いチーム名が決まるのであれば……」


 ほうぶん先生がそう言って頷いたのを見て、新渡戸は答えた。


「よし、まあいいだろう。では十分間、時間を与える。ほうぶん先生と私はこれから能力開発課に行って、君らを教える他の先生方を呼んでくる。その間に自分たちで話し合って決めなさい。三人の最初の共同作業だ。相手の意見を尊重し合い、仲良く決めなさい」


 そうして、新渡戸部長とほうぶん先生はガタガタとやっとこさ扉を開け、連れだって出て行った。


 十分経って二人が再び扉を開けたとき、研修室はしんと静まり返っていた。


 新渡戸もほうぶん先生も、教室に入るなり「おっ!」と驚きを口にした。割れたチョークが散乱していたのを踏みつけたのだろう。


 そう、ユキの机の上にはトートバッグが立てた状態で置かれ、その表面の数か所にチョークが直撃した跡がある。そして当のユキは、椅子ごと新渡戸たちとは反対を向いて座っていて、背中しか見えていない。


 ユキとチョーク戦を闘った杏児は、机に両肘をついてあごを乗せ、正面上方の時計を不機嫌そうにじっと睨んでいた。肩で息をしている。


 杏児が睨む時計の下の黒板には、白いチョークで「みどり組」と書かれた、その四文字全体が大きくバッテンで消され、その下に、チーム名の候補だった名前が三つ並んで書かれていた。


 万三郎だけが新渡戸たちを振り返り、両手を上に向けて肩をすくめた。


「あの……やっぱり、みどり組でお願いします」


 新渡戸はフッと笑って三人に言った。


「よろしい。諸君は今から、みどり組だ」

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