第四章 研修(2)

  二


 やっとのことで扉を開けると、新渡戸稲男部長が一人の男を伴って入ってきた。後ろの男が扉をガクガクと閉める。万三郎と杏児はその場で起立した。新渡戸は部屋に入るや、すぐに立ち止まって部屋全体を不思議そうに見回している。


「あれ、二人だけか。福沢くんは?」


 新渡戸が自分に向かって尋ねているのだと分かると、杏児は首をかしげてもごもごと答える。


「は、僕たち二人だけだと思います」


「ふうん」


 新渡戸は視線を少し上に向けて何か考えるような素振りを一瞬見せたが、再び二人のETに視線を戻して言った。


「おい、昨日は、二人とも派手にやってくれたな」


 新渡戸は起立した二人に歩み寄って、手前側に立っていた杏児の左肩を、無表情のまま、ポンと叩き、次に万三郎の肩を一度ポンと叩くと、その手をそのまま万三郎の肩に置いた。


 二人は畏れ入ってうなだれる。昨日のことについて、おそらく自分たちへの何かしらの処分が、今から言い渡されるのだろうと予想していたからだ。


「だが、まあそれはいい」


 新渡戸は、緊張した面持ちでこうべを垂れている万三郎の耳元でそう言った。万三郎はその言葉に驚いて顔を上げる。新渡戸は万三郎の肩に手を置いたまま、杏児にニコリと微笑んだ。


「私は江戸ワード駅長と一緒にセントラルビルの駅長室から見ていたが、そこへ古都田社長と、石川さんという、政府の審議官も来られた。シートレがバラバラになって墜落していく様子を見ながら、『あいつら、予想以上にやらかすじゃないか』としかめっ面していたよ」


「全然よくないじゃないですか」


 万三郎はがっかりしてそう言うと、一度上げた顔をまた下げた。新渡戸は万三郎の肩をもう一度ポンと叩くと、同伴してきた男のところへ戻りながら言った。


「紹介しよう」


 万三郎と杏児は、その言葉に揃って顔を上げて、部長の背中を見る。そして、その向こうに立ってこっちをニコニコと見ている、年の頃三十代後半くらいの、中肉中背の男に視線を移した。


「KCJ人事部、能力開発課長の、倉間法文くらま のりふみ先生だ」

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