第2話 彼氏ではない
「圭介、今日この後時間ある?」
放課後、生徒が自分の椅子から立ち上がり帰宅を試みる時にあたり、圭介の前方の席に座る女子生徒、雀が椅子をガタンと90度回して振り向きざまに質問。
すらっとした整った顔立ちと、綺麗な双眸によって作られた飾らない笑顔が彼の視界に入ってくる。
「暇だけど、どうかした?」
「ちょっと付き合ってよ」
ぺたぺたと雀の両手の平が圭介の両頬に触れる。
しっとりとした手の感触を両頬で味わいながら、視線を雀のイタズラッ気な笑顔に向け、ついでだからと目の保養を試みる。
まだ教室に残っている生徒がどこか黄色い声を上げたがとりあえず無視。必要な情報は一瞬で頭に入ってきたが、その後もしばらく雀は圭介の顔をガッツリとホールドし笑顔を向けている。
眼福も終了し、なんとなく気恥ずかしさが出てきたので思わず目線だけをそらす。「はぁ」と小さくため息、それを合図に雀は圭介の拘束を解除、名残惜しそうに両手を膝の上に乗せ「お願い」と小さく首を傾ける。
「……分かった」
笑顔に負けて承諾。
「ありがと」とやはり可愛らしい笑顔で返される。
おそらくこれから先も勝つことはできないであろう彼女の笑顔に「ま、いっか」と見切りをつけたあたりで、雀は席を立ち、「じゃ、約束したからね」と言って教室の出入り口付近の女子集団の中に入っていく。
「ごめん待ったー?」「大丈夫だよー」「彼氏くん置いてっちゃっていいの?」「部活終わってから会うことになった」「いいなー私もそんな青春したいなー」「いやいや圭介とはそういう関係じゃないよただの幼馴染だよ?」「あんだけイチャついてまだそれで通すか」「んー? 本当なんだけどなー?」
そんな楽しそうなガールズトークを片耳で聞き流しながら、圭介は現実へと向き直る。
現実とはすなわち、背中に突き刺さる男子生徒の眼差しである。
振り向く。
妙にニヤニヤしていたり、悔しそうにしていたり、苦笑していたり、とにかく三者三様といった言葉の通りの男子と顔を合わせることになった。
「はぁ」というため息は、本日何度目か。
「まじで俺と雀は、そういうんじゃないから」
と、一応言い訳だけはしてみたが、果たして伝わってくれただろうか。
結局はしばらく質問攻めにあった後に、誤解が解けないまま教室をあとにする。
さて、雀の部活が終わるまでの暇つぶし。
図書室でいいか。
と、廊下に出たときに、ひとりの女子生徒が目に入る。
背は圭介と同じくらいで、青い瞳。ショートカットの髪を起用にヘアゴムで二つに結ってツインテールにしている。
廊下の窓際に寄りかかり、片足をプラプラと遊ばせている。
さっき雀からもらった記憶通りの女子生徒だ。
記憶が確かなら、確か名前は
「沢渡ライカさんですか?」
女生徒は一瞬驚いた表情で圭介を見つめ、すぐにニッと笑った。
「一応確認っすけど、わたしとあんたは、初めましてでいいんすよね?」
圭介の質問には答えずに、向こうもまた質問で返してきたことに圭介自身が一瞬だけ面食らいながらも頷いておく。
「なるほど、つまりあんたが、あの伝達人さんの彼氏さんっすか」
自分のことを「あんた」と言われたこととか、彼氏と間違われたこととか、なんかいろいろといいたいことはあったが、とりあえず最初に直しておきたいことがあるので言っておこう。
「あいつは伝達人なんて名前じゃないですよ」
なんでそこを指摘したのかはわからないが、雀のことは能職名ではなくちゃんと名前で呼んでほしかった。
「初めまして、雀の幼馴染の、大葉圭介です」
と、次に直すべきところを直して自己紹介。
「どうも、伝達人さんに依頼した、沢渡ライカっす」
相手も名乗りながら手を差し出してくる。
「だから、雀ですってば」
少し強めに握り返しておく。
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