能力と職業はかみ合わない

岩木翔太

第1話 大葉圭介は鑑定士である

 大葉圭介は高校2年生で鑑定士である

 「ご協力お願いしまーす」

 日曜日の昼間、駅前の大通りに彼の声が響く。

 「お願いしまーす」

 どこか気だるそうなその声は、大通りの喧騒に紛れてあっさりとかき消されてしまう。

 しかし近くを歩く何名かは気に留めているようで、彼の持つクリップボードのアンケートに協力してくれる。

 道行くカップルや女子の仲良し3人組、通りがかりの老人、あとは同じクラスの友人が「よう圭介、バイトか?」とか言って色テープで仕切られた「YES」「NO」の枠に清き一票を投じてくれた。

 「んじゃまた明日なー」「おう、サンキュー」

 大切なアンケート協力者であるクラスメートに軽く手を振った後、

 「ご協力お願いしまーす」

 どこか気だるそうな声で呼びかけを再開。

 ……さて、っと

本来の仕事も進めなければなるまい。

 ボードを片手にキョロキョロと辺りを見回す。

 あの人は違う。彼女は……やっぱり違う。あ、あの娘けっこう可愛って違う違う違う!

 視界に入ってきた女性を一通りチェック。

 該当者なし

 「はぁ」と短いため息の後、また近くを通った人をテキトーにつかまえてアンケートに協力してもらう。

 大した質問ではない。それどころかこのアンケート自体に意味はないのだ。

 休日の昼、人の多く通る場所でちょっと他人には言えないような人探し。

 あちらこちらをウロウロしながら人を見て回るという、少し怪しい少年という印象は、この街頭アンケートという完璧なカモフラージュ(自称)によって大幅に軽減されている。

 鑑定士と認められた圭介の能力は割とシンプルなもので、「物体を構成している素材が分かる」というものだ。

 見ただけで大体のことが、直接触れれば細かいところまでハッキリと、その物体が「なに」で出来ているかを理解できる。

 レアな宝石だといわれガラス細工を買いそうになった幼馴染を助けたとき以来、約半年ぶりに活躍の機会が訪れた。

 「この辺りにはいないみたいだな」

 聞いていた特徴を持った女性が見受けられないと判断し、ひとりごちる。

 名前の分からない相手を探すとき、彼は事前情報に照らし合わせることが可能だ。

 しかしそれが本人どうかは触って細部まで理解しないと断言できない。

 今のように見ただけで得られる情報はあくまで大雑把なものになってしまう。

 だが、今回の依頼内容ならばそれだけでも十分だった。

 どれだけうまく出来ていても、人間と魔導人形など明らかに違うのだから……

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