第25話困惑の正造

  7-25

二人は田宮が何を目的に近づいてきたのかが心配に成った。

「玄関で会ってから、どうして話しをする様になったの?」

俊子が聞くと「田宮さんが、私がお母さんに似ていると言って追いかけて来たのよ」

「私はお母さんの顔を知らないから、田宮さんがお母さんの事知っているなら教えて欲しいとお願いしたのよ」

陽子が母親恋しいからその様な行動をしたと理解した。

「お母さんの事を全く知らない私に、お母さんの友達を教えてくれたわ」

「何故?友達を知っていたの?」

「短大で調べてくれたのよ」

「陽子に弘子がダブったのか?」

「陽子、田宮さんとは、男女の関係は無いわよね」

「例えば?SEXとか?」

はっきりと言う陽子に俊子は赤面して「まあ、そんな事は無いわよね!絶対に!」

「無いわ、紳士だから、誘っても駄目だったわ」

さらりと言う陽子に驚く二人。

「えーー」

「陽子!何を考えているのだ」と怒りを露わにする直樹。

「だって、好きなのだもの、我慢出来ないわ」

「相手の年齢を考えてみなさい」

「二十六歳離れて居るわよ」

「でしょう、親子よ!」

「そうだよ、陽子にはお父さんが居ないから、お父さんだと思ったのだよ」

説得しょうとする直樹達に「始めはそうだったけれど、段々好きに成ったのよ」と言う。

「田宮さんが相手にしないだろう」

「田宮さんの中にはお母さんがまだ居るから、躊躇っているだけよ、素敵でしょう二十年以上思い続けてくれるなんて中々出来ないわ!何回デートしたのだろう?お母さんと夢の中でね」

呆れる二人、一度も話しはしてないよ、田宮は弘子と関係は無いのよ、と言いたかったが陽子がまた感動すると大変だと、直樹は一度会いたいから住所を教える様に言うのだった。

陽子は直樹が陽子の思いを代弁してくれると思い教えたのだ。

部屋に戻った陽子が正造に、母の話と正ちゃんの事を祖父母に話したとメールをした。

正造から反応は?と質問が来たが、良い方向に向かうと意味不明のメールを返信していた。

「お爺さん、陽子は田宮さんに惚れていますね」

「困った事だな」思案をする二人。

「親子を好きに成ったのかしらね、その田宮って人」

「そう言えば、弘子も感じのいい人だと話していたからな」

「陽子には婿養子は考えて無いのですか?」

「もう、コリゴリだよ、孫娘迄死んだら、私達は殺人者だよ」

「じゃあ、田宮さんと?」

「冗談じゃない、まだ今年十九歳の孫娘が美人で勉強も出来るのに、中年の男に嫁がせる訳にはいかない」

「陽子も気が付くわよ」

「一度、田宮に会いに行って来るよ」

「そうですね、お爺さんの目で確かめて来て」

二人は田宮が悪魔の様に思えて、二十年の時を超えて蘇るのだった。


翌日、田宮のスケジュールを事務員に聞いて、出掛ける直樹。

陽子は朝から学校に行った。

「お爺さん、頼みましたよ」

「判った」と言って車で走っていった。


事務所に到着すると、初めて話す緊張感が直樹には有った。

数人の事務員が忙しそうに、電話の応対をしていた。

直樹に気づいて「いらっしゃいませ、何方様でしょうか?」

「桜井と申します、田宮さんにお会いに来ました」

「あっ、社長ですね、今、近くに急用で出ています、お待ち頂く様に申し使っています」そう言って若くて綺麗な女性が応接間に案内した。

直樹は事務所の大きさ、事務員の質は中々の様だと思う。

暫くしてお茶を持って異なる女性がやって来た。

「どうぞ」と言う女性に「此処は何年程前から?」と尋ねた。

「五年程でしょうか」

「田宮さんはずーと独身なのですか?」

「その様に聞いています」

それだけ話して部屋を出て行った。

田宮の机が向こうに見えて、綺麗に片づいて几帳面な性格を感じた。

暫くして、田宮が戻ってきて「初めまして、田宮正造です」と名刺を差し出した。

中々の紳士で、年齢より多少は若く見える印象だった。

「陽子がお世話に成っているので、そのお礼とお願いで参りました」

「いえ、お世話と云う程の事ではありません」

「携帯電話まで頂いて」

「いえいえ」

「今日は、その陽子が貴方に気持ちが有る様なので、田宮さんの方から諦める様に話して貰おうとお願いに来ました」

「はい」困惑の顔をする。

「田宮さんも、自分の子供の様な、年齢の陽子では釣り合いも無いでしょう」

「いえ、そんな事は有りませんよ」

田宮の意外な言葉に、この男も陽子を好きに成っていると感じるのだった。

「もう、お調べに成ったのでご存じだとは思いますが、陽子の両親はもうこの世にはおりません」

「はい」

「その事故に貴方も関連しているのですよ」

直樹は意外な事を言い出した。

それは陽子から正造を引き離すのが目的だったからだ。

「それは?どう言う事でしょう?」

怪訝な顔の正造に「田宮さんが、弘子に付きまとうので、短大出て直ぐに結婚したのですよ」

「それは。。。。」困り顔に成る。

「貴方に付きまとわれて怖く成って、笹倉の息子と結婚してしまったのですよ」

「私は何も。。。。。」

「写真を写したでしょう、毎週土手に居て内の家を見張っていたでしょう」

「私は、何もしていないし、唯、切掛けが欲しくて」

「弘子は怯えていました、それで勝巳さんを頼ったのです、本当は二年程、農協で勤めてから結婚させる予定だったのです」

「就職先も知りませんし、一度も話しをしていません」

「だが、無言の恐怖も有るのです」

「私にどの様にして欲しいのでしょう?」

「親子を苦しめないで欲しいのです」

「今、陽子さんを苦しめているのでしょうか?」

「弘子は貴方に殺された様なものです、貴方が付きまとわなければ、普通の結婚式をしていたでしょう、

式も行わないで、陽子が生まれて、旅行社の企画ツアーに参加しなければ、妹の聡子も亡くなってはいません」

「。。。。。」

「貴方の行動が二人を死に追いやったのです、今また娘の陽子まで不幸にするのですか?」

「。。。。。。」

正造には衝撃の話しだった。

自分が原因で弘子さんが飛行機の事故で亡くなった事が、信じられない話だった。

「わ。か。り。ま。し。た」と噛みしめるように返事をした。

これで、陽子から離れるだろう、直樹は安心顔で田宮事務所を後にした。


直樹が帰って正造は放心状態だった。

自分が弘子を殺したと云われて、そうかも知れないと考えていた。

写真から土手待機の行動を、統べて弘子が見ていたのなら、あり得る行動だったから、正造は自己嫌悪に陥ってしまった。

だが実際、弘子は写真を撮影された以外、何も知らなかったのだ。

勿論写真を正造が撮影した事実も知らないのだ。

土手で毎週ぼんやりとしていただけだった。

両親が気づいて警察に通報していた。


直樹が帰っても正造は放心状態が続いていた。

暫くして陽子がメールで連絡をしても反応が無かった。

今日学校の帰りに家に行くからね!だったが反応が無いので心配に成っていた。

夕方陽子が自宅に行っても鍵がされて、本宅に行く陽子。

「こんにちは」と明るい声に春子が笑顔で「陽子さんいらっしゃい」

「美味しいケーキを買ってきたのですが、しょ。。正造さんはまだ事務所ですか?」

「そうだね、まだ帰って居ないね」

「昼間もメールしても返事が無かったのよ、仕事が忙しいのかな?」

「定時の仕事だから、もう事務員も帰っていると思うけれどね」

「私、見てきます」

「自転車使いなさい」

「有難うございます」

陽子は自転車で田宮の事務所に向かった。

だが電気も消えて鍵も掛かって扉は開かなかった。

正造は応接間にまだ居た。

昔の事を思い出していた。

自分が弘子を殺してしまったのか?

どうすれば良いのだろう?陽子の事は脳裏から消えていた。

自分の過ちでと考えていたのだ。

携帯にも出ない、その日から正造は消えてしまった。


翌日も陽子は事務所を訪れた。

そして事務員から祖父直樹が訪問してか、ら正造が消えたと聞かされていた。

衝撃だった!祖父が正造にとんでもない事を話したのだと悟る陽子だった。

何を正ちゃんに話したの?私から引き離す為?

お母さんの秘密がまだ何か有ったの?

私が知らない事がまだ有るの?嘘でしょう?

正ちゃんーーーー陽子は帰りの電車で色々な事を思い巡らせていた。

不安が。。。。。

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