第24話記憶が蘇る

7-24

良造が春子に尋ねた。

「この後の行動は?」

「夕方まで掃除、とか模様替えをして、夕方正造に送って貰って自宅に戻る」

「凄い予言だね、二人のその後は?」

「もう男女の関係だから別れないわね」

「成る程」

「陽子ちゃんは正造が初めての男だからね、正造が裏切らない限り絶対に別れないわね、正造は自分の理想の女性だから、だって二十年も忘れない女性だから、大事にするから二人は仲良しだよ」

「お前の予言も凄いね」

「正造は慎重派だから、結婚はまだ先だね、でもあの二人の結婚は間違い無いわ」

「親子だよ」

「それが、上手く成るのが夫婦だよ」

春子は近い将来の結婚の準備を描いて、微笑むのだった。

二人は明るい壁紙に張り替えて、昼飯を忘れて作業をしている。

陽子の胸が正造の顔に当たる事も有った。

「いゃー、正ちゃん、わざとでしょう」

「違いますよ」

「私の裸見たから?欲しく成ったの?」

「絶対に違います、僕は子供には興味が有りません」と言うと「嘘でしょう?嘘でしょう?子供じゃあ無いわよね」と迫ってくるのだった。

「大人の、綺麗な女性の身体ですよ」

「ほら、やっぱり、見ているんだ、正ちゃん、恐いわ」

二人の楽しい時間だった。

夕方陽子が帰ると言うので、送るよと車で二人は帰って行った。

それを実家から「ね、当たりでしょう」と自慢する春子だった。


桜井の家で直樹と俊子が「お父さん、陽子も弘子の事を知ってしまったのでしょうかね」

「何処まで判ったのだろう?」

「結局婿養子に拘って、勝巳さんと結びつけたけれど、実際は子供を二人共失ってしまったわね」

「もう、随分前だったな、あの時誰だった?」

「忘れましたよ、警察に届けましたよね、大袈裟に話して」

「そうだった、あの人の人生を壊してしまったのかも知れないと思って、後で後悔をしたよ」

「損害保険の男性だったわね、弘子も好きだったのには驚いたわね」

「慌てたな、あの時あの青年と弘子が出会っていたら?」

「そう、二人は死ななかったわ」

「そうだよな、結果的には婿養子は無いから、嫁に出しても同じだったな、聡子まで死んでしまって、

私達は何をしてしまったのだろう?」

秋の夜空を縁側に座って眺めながら話していた。

「陽子はまだなのか?」

「もう、帰ると思いますよ」

「いつの間に携帯を買ったのだ?」

「知りませんよ」

「持っていたよ」

「でも請求書、見たこと無いですよ」

「変だな?男?」

「携帯を買い与えて、通信代まで払ってくれる男性は中々居ませんよ」

「高いのか?」

「高いですよ、まだ携帯持っている人少ないですから」

「でも陽子は確かに持っていたよ」

その時「只今~」と上機嫌で陽子が帰って来た。

縁側に廻って、二人を見て「月を見ているの?」

「陽子、夜は寒いだろう、その格好じゃあ」

「大丈夫よ、家まで送ってくれたから」

「えー、」と驚きの声の二人。

しまった、やばい!

陽子は学校の近くの、友達の家に泊まった事にしていたのを忘れていた。

「そんなに遠くから、送って貰って、お茶も出さないで帰したのか?」

「いや、その、遅く成るから直ぐに帰ったのよ」

「陽子!男性?」

「違う、違う」と否定する陽子に不意に尋ねた。

「陽子、携帯持っているだろう?」

「えー」

「持っているなら見せて見なさい」

躊躇すると「正直に言いなさい」俊子が言う。

渋々バックから出す陽子、手に持つ直樹、色々なボタンを押すと「陽子!これは?正ちゃんって?誰だ」

「あの、~携帯くれた人」

「何?男だろう?」

困り顔の陽子、先程までの上機嫌から一転困る顔になるのだ。

待ち受けに書いて有るから、写真が無いのが救いだった。

「陽子、この携帯の通話料金は誰が払っているの?」

俊子が聞くと「この正ちゃんに決まっているだろう」直樹が怒ったように言う。

「そうなの?」

「携帯無いと困るだろうと借りているのよ」

「何に困るのだ」

「痴漢に襲われた時とか、色々有るでしょう」

「何故こんな高級な物をお前に貸すのだ!」

「保険会社の人だから、沢山有るのよ」

「笹倉の家に一緒に行った保険会社の男か?」

「そうよ、親切に色々探してくれたわ」

「お前が保険会社を使って、両親を捜すとは、わしも考えなかった」

「陽子、何処まで知っているの?」

不安顔の俊子に「統べてよ」

「統べて?」と直樹が不安な顔で聞く。

「言ってみて」

「構わないの?」

陽子は二人に自分の考えも交えて言う。

「私のお父さんは笹倉の勝巳さんで、婿養子に迎えられた。でも結婚式迄に私が宿って、挙式が出来なかった。お父さんはセントラル旅行社に勤めて居た。その会社が海外で挙式のプランが出来たのよね、社内モニターの募集が有って、お父さんはそれに申し込んだ。お母さんが美人だったから選ばれたのよ、それは安価で行く為に韓国経由だった。お爺さん達は飛行機が恐いのと、私の面倒を見る事で行かなかった。それで両家から清巳さんと叔母さんの聡子さんが同行した。

お父さんの友人、お母さんの友人の野々村さん、大山さん、笹倉さんと計十人位でね、だが飛行機は韓国に到着する前に消えたのね、事故?拉致?今も真相は判らない、こんな処でしょう」

「。。。。」

「。。。。」二人は唖然としていた。

完璧に当たっていたから「保険会社の人が調べたのか?」

「そうよ、二人で調べたのよ、田宮さんって親切で、頼りに成るのよ、その連絡の為に携帯を持っているのよ」

「保険会社に何の利益が有るのだ」

「親切なだけよ、私が両親の事を知りたいと言ったからよ」

「陽子、若い人がよくそこまでお金が有るね」

「若くないよ、社長さんだから」

「社長?」

「そうよ、お母さんより年上よ」

「陽子の恋人かと思ったよ」

「しかし、よく調べたな、感心するよ、お前の事が心配だったのと、一瞬で子供を失った苦しみで、内緒にしよう、陽子には両親は海外で元気に暮らしている、やがて戻って来ると教えていたのだよ」

「お爺さん達の悲しみは判るわ」そう言われて、もう二人は涙、涙に成っていた。

孫娘が自分の両親の死を受け入れた事の、安心感も有ったのだった。

陽子は二人を残して自分の部屋に行ってメールで正造に先程の事を報告していた。

正造から良かった。

これで隠し事無く生活出来ると喜ぶのだった。

直樹と俊子は暫し泣いて、昔を思い出していたが、突然俊子が「お父さん、思い出しましたよ」と叫ぶ。

「何を?」

「あそこの土手に来ていた人ですよ」

「誰だった?」

二人には遠い昔の些細な出来事だったから、記憶からは消えていた。

「警察に通報したでしょう?」

「ああ、そんな事が有ったな」

「あの人、確か保険会社の人じゃあ無かった?」

「そうだった、一流大学卒の一流企業だと警官が電話で言ったな」

「その人、田宮って云わなかった?」

「覚えてないよ」

「陽子が云った年齢だと当てはまるわ」

「でも、何故?二十年以上も昔の男が此処に来るのだ?」

「陽子を呼んでもう少し詳しく聞いてみましょう」

二人はお風呂に入っている陽子が、湯から出てくるのを待っていた。

「陽子、話しが有るのだが」

「待ってよ、髪を乾かしてから」

鏡の前でドライヤーを持って長い髪を乾かしながら、正造が乾かしてくれた情景を思い出していた、

そして、含み笑いをするのだった。

優しくて真面目、二十年も一人の女性を思い続ける人、最高ねと微笑みながら居間に入って来た。

胸が見えそうな服で「まあ、何と云う姿なの?」と俊子が言うと「色っぽい?」と笑う陽子。

二人はもう孫娘が充分大人の女性に見えていた。

「陽子が世話に成った保険屋さんの事を聞きたいのだけれど」

「田宮さん?」

「歳は?」

「四十五歳よ」

「結婚は?」

「してないわ」

「一度も」

「一度もしてないと言っていたわ」

「何処で会ったの?」

「此処」

「この家?」

「そうよ、玄関で会ったのよ、正確には玄関先ね」

「用事は?」

「お母さんに会いに来たのよ」

「えー」

「えーーー」二人が驚きの声をあげた。

あの土手の男性だと確信した二人は、今度は弘子に似ている陽子に、田宮が何処まで接触しているのかが

心配に成った。

陽子の頭には正造が大きく毎日広がって行く。

この辺りで祖父母に打診をしてみよう、との考えが芽生えていたのだ。


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