朝霧

第23話結婚への罠

　７－２３

正造は休みにも出掛けなくなった。

母の春子が「どうしたの？毎週出掛けて居たのに」と言って心配そうに言った。

「用事が無くなったのでね」

そう言う正造は寂しかった。

正造は毎日元気なく仕事に行く日々が続いていた。

三月に成って、弘子と聡子を連れて直樹がドライブに行こうと言い出した。

笹倉の兄妹二人と二台に別れて、弘子は自分の車でドライブだと張り切っていた。

笹倉の家に弘子が二人を迎えに行く事にして、二台の車で城之崎に行って蟹を食べて帰る予定だった。

勝巳さんが飲むから、弘子の運転に成っていた。

一台には直樹、俊子、聡子、もう一台には弘子、勝巳、智恵美が乗って一路、城之崎に、弘子以外は全員が知っているドライブだったのだ。

聡子にも自分が嫁に行けるかの大事な出来事だったのだ。

四月から姉と同じ短大に入学の決まっていた。

聡子は家を継ぐのは弘子お姉さんで、私は好きな人と恋愛をして結婚するのだと、協力的だったのだ。

先日聡子が「笹倉の兄弟に会ったのでしょう？どんな人？」と尋ねると「普通ね、武雄さんは農家向き、勝巳さんは少し遊び人ね、聡子も通学したら判るけれど、電車には理想に近い人も乗っているわよ」と話した。

「そうなの？」

「でも満員だからね、お互い声を掛ける機会が無いのよね、」

「いい人居たの？」

「目と目が会うのだけれど、中々よ、夏に身体が触れると、ドキドキしたわ」

「どんな人？」

「一流損保の人だった、あの様な男性と恋愛したかったなあ、もう会う事は無いけれどね」

その話しを聡子は俊子に云っていた。

俊子も直樹も心配に成って強硬手段に出ていた。

その頃、正造の元には検察庁からの呼び出し状が届いていた。

正造は驚いたが、もう成る様にしか成らない。

いざとなれば、自分は何もしていない、声も掛けていないし手紙も出していない、写真は証拠が無い。

だから、罰せられる事は何もしていないと言う予定だった。

検察官は一目で立憲は無理と判っていたが、一応注意をして不起訴にする予定に成っていた。

同日、正造は検察に、弘子は城之崎に、二人はお互いの考えとは全く異なる結末に進んで行ったのだった。

検察官が「田宮君、諦めなさい、彼女は貴方に興味が無いのよ」

「はい、もう未練も何も有りません」

「君程の学歴と職業なら、一杯女性は居ますよ、前を向いて生きて下さい」

「判りました」

女性検察官は何故？こんな条件の良い男性を相手にしないのだろう？

顔も美男子の部類、企業は一流、家も普通以上、学歴は一流、振った女性は変わっているわ、話しも普通に礼儀正しく常識人だと見ていたのだ。

だが帰り道運転をしながら、正造は決意をしていた。

今から二十年間、彼女を忘れないなら、その時にケジメをと思うのだった。

それは正造自身の意地だった。

警察問題に迄成ったから、その思いは一層強く成った

車の中で勝巳は弘子の気を引こうと必死だった。

だが初めての長距離運転に緊張の弘子は殆ど聞いて無かった。

城之崎温泉日帰り蟹ツアー、温泉に入って蟹のフルコースを食べる。

旅館に到着した勝巳が「興味が無いのでしょうか？反応が無いのですが？」と直樹に尋ねた。

「大丈夫ですよ、娘が恥ずかしいのでしょう」

直樹は二人が付き合ってくれなければ困るのだ。

温泉に入って全員浴衣で寛いで、弘子の浴衣姿に見とれる勝巳だ。

今日は何とかの思いの中で宴会が始まる。

勝巳が異常に飲むので、「飲み過ぎよ！」嗜める智恵美。

帰りの運転は弘子だから安心なのか？直樹も飲んだからだが、直樹達のお膳立てだった。

二人が飲んで運転は当然免許を持っている人に、帰りの運転が智恵美と弘子に成ってしまった。

二人の作戦で、勝巳は飲み過ぎて寝てしまった。

「勝巳兄さん寝てしまった」智恵美が困り顔をする。

「今夜用事が有るから帰らないと」と聡子が言う。

これも予め二人にする為の予定の行動だった。

「それじゃあ、勝巳さんが起きるまで、弘子待ってあげなさい、私達は先に智恵美さんに運転して貰って帰るから」直樹が言う。

「その内、起きるわよ、待ってあげなさい」俊子もそう言う。

「えー、お父さん達狡いよ、このまま起きなかったら、運べないわ」と困る弘子を無理矢理残して四人は、帰ってしまったのだ。

直樹は部屋の勘定を泊まりの分まで済ませる強引な行動だった。

それは田宮の事、婿養子の事の両方の解決の為の強硬手段だった。

勝巳は相手にされない弘子を自分の物に出来るので、これで武雄に勝ったと思うのだった。

暫くしても起きない勝巳に」、時間が遅く成ると焦る弘子。

起きない勝巳を起こそうとする弘子が、身体を揺さぶって「もう、帰りましょう、遅く成るわ」

すると、勝巳が起き上がって、いきなり弘子にキスを求めてきた。

不意にキスをされた弘子は驚いた。

酔いつぶれて居ると思っていたから、もう勝巳は獣状態、弘子に襲いかかる。

「やめて、勝巳さん」」と言う口に顔が被さってキスをされた。

今度は身体を倒されて、浴衣の弘子は無防備だった。

浴衣の下はパンティのみで、そのまま強引に浴衣の胸に手が入って乳房を掴まれる。

「あーー」揉まれる乳房、吸われる乳房、強引だ。

身体の力が抜けてゆく弘子、浴衣の帯が解かれて、美しい裸体の弘子の身体に勝巳が燃えた。

パンティに勝巳の手が、少し抵抗を試みるが、男性の力は強い。

諦めの弘子、乳首を吸われて感じていた。

パンティが脱がされて、陰部に勝巳の指が、勝巳も素早く下着を脱ぐ。

恥ずかしがる弘子の足を大きく広げて、勝巳の身体が侵入する。

「痛いー」と口走る弘子に、稲妻が身体を走った。

荒々しいSEXに放心状態の弘子、意外な処女喪失に男女の関係に成ってしまったのだ。

初めての男性経験だった。

弘子のショックは計り知れない。

何も喋らない弘子に「結婚するから、いいじゃないの」の言葉以外、弘子の耳に残っていなかった。

ロマンチックな恋愛を想像していた弘子に、突然の出来事だったのだ。

結局その日二人は宿泊した。

謝る勝巳、そして愛していたの言葉、再び求める勝巳に、拒否反応を示すも弘子？諦めなのかも？

結局は再び身を任せる。

遊び人の勝巳は自分が満足するまで弘子の身体をもて遊んで、哀しい一時だったのだ。

親戚家族の手前、「勝巳さんが、起きないから、夜の運転未熟だから明日帰ります」と連絡をした弘子。

それを聞いて「お母さん、二人が決まった様だ」

「良かったですね」

直樹と俊子は喜んだ。

しかし四月に成って農協に就職した弘子を、身体の変調が襲ったのだ。

妊娠をして、勿論勝巳との子供で陽子が宿った。

二人は両親の勧めで、桜井の自宅の近くにマンションを借りて住んだ。

挙式は後にして、入籍も終わって、弘子の農協での仕事は僅かの期間で退職してしまった。

聡子が嫁に行ったら、一緒に桜井の家に住む事にして、マンションに直樹も俊子も毎日通う。

やがて陽子が生まれて、二十一歳で子持ちに成った弘子、幸せの筈だったが、実際は複雑だったのだ。

妊娠中も勝巳は遊んで居る様に見えたのだ。

それを誤魔化す為にも、子育てに忙しい弘子を喜ばせ様と、ブライダル企画に応募した勝巳。

それが見事に当たったのだ。

結婚式をしていない弘子には最高の喜びだった。

父も母も鉄の塊が空を飛ぶ怖さが、陽子の面倒は見るから行って来なさいだった。

聡子には、憧れの海外旅行。

「行きたいわ、夢のハワイ、私の挙式もこれが良いわ」とパンフレットで喜ぶ。

笹倉の家も両親が行かないから、長男が代表で参加した。

勝巳の友人が五人、そして弘子の友達が大山順子、野々村真希、笹倉真子の三人は弘子の親友、で三人とも独身、今後の参考に行きたいと参加していたのだ。

その後十二人は行方不明に成ったのだった。

それぞれの家族を残して突然の蒸発に成った。

。。。。。。。。。

現在。。。。

朝食を終えた陽子は、正造の家の中の殺風景な雰囲気に「正ちゃん、私今日は夕方帰れば良いから、家の中を明るくしましょう」と言い始めた。

「えー」

「ホームセンターに行きましょう」

「はあ」

そう言うと乾いた髪の毛を掻き上げて、着替えに入った。

それを知らない正造が襖を開いた。

「きやー」

陽子がバスローブを脱いで全裸に成った時だった。

「すみません」と慌てて襖を閉める正造、振り返った陽子の綺麗な裸体が瞼に残った。

着替えて、半袖のTシャツにパンツルックで「さあ、行きましょう、正ちゃん見たでしょう」

「見ていませんよ」

「嘘って顔に書いてある」

そう言うと正造が顔を触った。

「ほら、嘘のつけない正ちゃんだ」と嬉しそうに言う。

二人が揃って車で出掛ける様子を見ていた春子が「お父さん、間違いないわ、今、腕を組んで出掛けたわ、もうすぐ部屋を掃除する道具を買って帰って来るわよ」

「本当か？」

「本当よ、私の勘は当たるわよ」と微笑んだのだ。

暫くして、両手に一杯の荷物を抱えて二人が戻ってきた。

「ほら、部屋の模様替えの道具買って来たでしょう」

「あれ、母さんの言うのが正解だったね」と呆れ顔の良造だった。

益々喜ぶ春子と良造、孫とひ孫が出来る気分だった。