朝霧

第18話父の職場

　　　　７－１８

「一度確かめてみたいの？」陽子が正造に電話で話した。

それはセントラル旅行社の事を笹倉のお婆さんに話して、反応が見たいと伝えていた。

それは笹倉の家と祖父母が相談をしている気がしていた。

久美子さんに病院で話してから、急に祖父母が母と聡子叔母さんの話をしたのだ。

若しかしてセントラル旅行社の事も、何か判るかも知れないと思ったのだ。

夏休みの間に笹倉の家に行きたい、一緒に行って聞いて欲しいと言ったのだ。

陽子にはもう正造の存在が家族に判っても良いと思っていたのだ。

急に現れるより慣らした方が将来良いと思う様に成っていた。

将来自分の事を正造が好きに成ってくれたらの準備行動に変わっていた。

八月最後の日曜日に正造は陽子の自宅の近くに車でやって来た。

携帯の連絡で急いで嬉しそうに出掛ける陽子を見て、「東京の男の人がきたのか？」と直樹が言った

「違うわ、友達よ」そう言いながら走って表通りに駆け足で行った。

直樹が確かめようと、後を追ったが車は走り去っていた。

「ナンバーがこの辺りの番号だったから違うな、レンタカーでも無かった」と俊子に言う直樹は、これから陽子の監視が大変だと感じたのだ。

綺麗で可愛い、孫娘を案じる祖父母の姿がそこに有った。

正造に久しぶりに会えたと思えた。

鰻を食べに行ってから、一週間だが長い感じがお互いにしていた。

「久しぶりですね」二人が同時に言って笑ったのだ。

「一緒に行けば私は何者に成るのかな？」

「保険会社の人で行けば良いじゃないの」

「何を聞くの？」

「セントラル旅行社の事、祖父母のあの態度、驚き方は尋常では無いから、私の友達の名刺とこの封筒、

それに破られたパンフレット」

「何？破られたパンフレットって？」

「見て、ほら」とテープで貼った旅行のパンフレットを見せた。

車は空き地で急に停車した。

正造はそのパンフレットを手に持って「セントラル旅行社の野々村さんのあの智也さんが自宅に送ってきたのよ」とラブレターも差し出した。

「読んでも良いの？」

「良いわよ、お父さん、いいえ、彼氏だからね、焼き餅焼くな～～正ちゃん」

陽子のその呼び名に唖然とする正造。

親しみを込めていたのか？何か年齢が近づいた気持ちに成るのだった。

真剣に見る正造。

「お婆さんはこのパンフレットを見ていきなり破り捨てたの？」

「結婚式は日本でするものだと言って、怒って、セントラル旅行社に勤めている人と付き合うなと皆殺しにするつもりだと、それはもう大変な怒りで、びっくりしたわ、その後野々村さんが自宅に来て、私に付き合って欲しいと」

「何故？彼が態々自宅に来たの？」

「私は祖父母が許してくれたらお付き合い良いわと言ったから」

驚く正造が聞くと「陽子さんは智也君と付き合う予定だったの？」

「そうじゃないわ」慌てて否定する。

「もし、許して貰えたらどうする予定だったの？」

「もし、そうなったら、その後考えようかと。。。」

正造の機嫌が悪くなったのを悟った陽子は「大丈夫よ、私は正ちゃんの事、好きだからね、お爺さん達に確かめる為よ」と甘えた仕草で言う。

年齢差を越えてお互いが意識しているのが判っていた。

パンフレットを何度も見る正造に「穴が空くよ、見つめ過ぎると」陽子が笑いながら言う。

「陽子さん、若しかして、大山さんも野々村さんもこの企画で韓国に行ったのでは？」

「日本人が韓国で結婚式はしないでしょう？」

「違うよ、此処見て」とパンフレットの一部を指さした。

「あっ、これは？」驚く陽子。

「そう、旅行代金を安くする為に韓国の飛行機を使っているのだよ」

「本当だ、これは仁川経由ハワイ、これは仁川経由フランスだわ、アメリカ、ロスも仁川経由イタリアも統べて仁川経由だわ」

「そうだよ、多分昔も有ったのかも知れないよ」

「野々村さんが自分の会社は、この企画に歴史が有ると書いていましたね」

「でも、父と母はもう結婚していたから、違うわ」

「ですね、でも野々村さんと大山さんは間違い無くこれで行ったと思いますね」

「正ちゃんは、お母さん姉妹の三角関係はどう思いますか？」

「怪しい話しだと思いますがね」

「私も正ちゃんが言うから、疑問に思えてきたわ」

「一連の話しを繋げると一番合うのが、陽子さんの両親が結婚式を海外で挙げる事に成って、妹さんを始めとして、友達と一緒に海外に行ったが正当性が有るけれどね」

「そうね、笹倉真子さんのお母さんが、桜井は疫病神の意味も筋が通りますね」

「二十年近い前に旅費まで出して海外で挙式を挙げるだろうか？」

「両親が負担したなら、大変な金額よね、無理ね」、

「でも各自が態々旅費を出して行くかな？」

「今は殆ど本人達だけみたいだよ、此処に書いて有る」とパンフレットを見る。

「そうよね、各人負担では旅行に行きたい人だけですよね、無理ですよね」

「後は宝くじでも当たったか？」そう言って笑った。

しばらくして車は発進した。

兎に角、笹倉の家でセントラル旅行社が何か判るのを期待していたのだ。

笹倉の自宅では一雄の妻の加代が陽子を出迎えて、正造を見て「こちらの方はどちら様でしょうか？」

「叔母様、私の知り合いの田宮さん」と紹介した。

田宮は名刺を差し出して挨拶をする。

「保険会社の方が？」との質問に「叔母様、お父さんの事をお聞きしたくて」

加代は陽子が父勝巳の事を、保険会社に調査を依頼したと誤解して「どの様な事を調べていらっしゃるのでしょうか？」と尋ねた。

陽子が加代の質問を遮って「お婆さんと話しがしたいのですが？」

「お婆さん、先程まで寝ていたみたいだけれど。もう起きたかしら」

そう言うと智恵子の寝室を見に行き、正造の詮索をかわしていた。

暫くして応接に智恵子が加代に連れられて入って来て「陽子、よく来たね」微笑みながら言った。

「お婆さん、具合は？」

「多少は良く成ったけれど、歳には勝てないよ」と笑いながら会釈をした正造を見て「陽子の旦那さんかね？」といきなり言い出して「違いますよ、保険会社の人ですよ」慌てて否定する。

「そうかい、私には陽子の旦那さんに見えたがね」

「お婆さん、陽子さんに失礼よ」

「そんな事有るかい、陽子そうだろう」

照れる陽子、そして困り顔の陽子、呆けていた智恵子には真実の姿が見えた。

言葉に困る陽子に正造が、「お婆さん、お尋ねしたいのですが？」

「婿殿何が聞きたいの？」

「セントラル旅行社ってご存じですか？」と尋ねると急に顔色が変わって「悪魔の旅行社だーー」そう言って怯えだした。

「お婆さん、どうしたの？」と陽子が尋ねると興奮した智恵子は「勝巳－、勝巳―、清巳―清巳―」と騒ぎ出して、慌てて加代が智恵子を寝室に連れて入った。

二人は顔を見合わせて「凄い変わり様だったね」

「本当に、内のお婆ちゃんと同じだった」

「何か有るね」と話していると加代が戻ってきて「興奮させないで下さい、折角心臓が少し良く成ったのに」と嗜めた。

「叔母さん、セントラル旅行社って何か有るの？」

「陽子さん何も聞いて無いの？」

「はい、何も知りません」

「最近まで勝巳さんの事、内緒だったからね、でももう良いのではないかな、貴方のお父さんの職場だったのよ」

「えー、お父さんの仕事がセントラル旅行社ですか？」

「そうなのよ、」驚きの二人はその後が聞けなかった。

総てが繋がってしまったから、驚きの表情のまま帰って行ったのだ。

車の中で「両方の祖父母の驚き方はこれだったのね、誰かの結婚式にセントラル旅行社のツアーを使った」

「若しかして、陽子さんの両親の挙式？」

「そうですね、事故に遭ったメンバーはお母さんの友達と妹、そして父の兄？」

「他の人の挙式には、お母さんの友達は行かないから、そして両親は飛行機が恐かったから兄弟が参加した」

「社員割引で？でも高いでしょうね」

「陽子さんの両親は結婚式の前に、お腹が大きく成って、式が出来なかったから、陽子さんが産まれてから改めて結婚式をしたのだよ」

「でも、何故？海外？」

「何か特別な企画？」

「正ちゃん、それだわ、調べて見て、私も聞いて見るわ」

「判った」

二人は漸く謎が解けた気分で、疑問が消えた心境に成った。