第19話婿養子
7-19
笹倉の家を出た陽子は、両親の事よりも大事な事だと考えて、陽子は正造に、何処かに行こうとお強請りをしていた。
折角会えたのにこのまま別れたく無かったのだ。
日々大きく成る正造の存在なのだ。
昼は過ぎていたから簡単な冷麺を食べて「暑いから、清水寺まで行こうか?」
「えー、今から京都は遠くない」
「違うよ、近くに有る播州清水寺だよ」
「そうなの、近くに清水寺が有るのね」と初めて聞いた陽子だった。
清水寺きよみずでらは兵庫県加東市平木にある天台宗の寺院。
山号は御嶽山。
本尊は十一面観世音菩薩で秘仏となっている。
西国三十三観音第25番札所。
同じ西国三十三観音の第16番札所である
京都市の音羽山清水寺と区別するため播州清水寺とも呼ばれる。
夏でも木々が生い茂り、少し高い場所に在るので涼しいのだ。
最近は人面魚の鯉で最近有名に成ったのだ。
駐車場に車を止めて、山道に入ると、冷たい緑の空気が二人を包み込んだ。
「気持ち良いわね」
「でしょう?暑さを忘れるでしょう」
正造と腕を組んで歩く陽子には最高の気分だった。
その時正造の腕を陽子が強く掴んだ。
「あそこに、大蛇が」と指を指す。
見ると小さな蛇の尻尾が石垣の間に入って行く。
「小さな蛇ですよ」と言うと「いいえ、大蛇でした、私は蛇が嫌いです」と言ってまた正造の腕にしがみつくのだ。
悪い気持ちはしない、正造は蛇に感謝していた。親子?カップル?
その後はべったりと離れない陽子、汗が伝わってくる。
境内の池のベンチに座って、人面魚の鯉を探す二人「あれよ!」
「違うよ」
「じゃあ、あれは?」
「違う、違う」
二人の様子と同じ様に二組のカップルも、人面魚探しに楽しい一時を過ごすのだった。
楽しい思いの後、家に戻ると祖父母が恐い顔をして待っていた。
「陽子、笹倉の家に行って、セントラル旅行社の話しを聞いたらしいな」
「そうよ、お爺さん達が何も教えてくれないからよ」
「お父さんが勤めて居た事を聞いたから納得したのか?」
「。。。。」
「心臓の悪い笹倉のお婆さんを苦しめたら駄目だ」
「。。。。。」
横から俊子が「誰でも忘れたい事が有るのよ」
「それより、何故、田宮と云う保険会社の人と行ったのだ、保険金の為か?」
俊子が「何処で、保険会社の人と知り合いに成ったの?」
陽子は二人の話で事故?が確実に有ったと悟った。
「せい。。。田宮さんはこの家に来たのよ」
「いつ?何の用で?」
「お母さんに会いに」
「えー、弘子の知り合いなのかい」
「私がお母さんに似ているからびっくりして話しかけて来たのよ」
二人は顔を見合わせて「確かに、陽子はお母さんの若い頃に生き写しだ、しかし、家を訪ねて来る田宮って人は知らないなあ」
「私も知りませんね」考え込む二人。
「でも、本当よ」
二人は必死で思い出そうとしていたが、思い出せないのだった。
二人が考え込んだ隙に陽子はその場を離れて二階に行くと、野々村智也に電話をした。
海外ブライダル企画がいつ頃から始まったのかを尋ねたのだった。
野々村は調べて連絡をすると云う返事だった。
翌日も祖父母は田宮を思い出そうと、暇さえあれば考えていたのだ。
田宮も大阪のセントラル旅行社に保険金の調査と偽って電話で尋ねていた。
此処も調べて連絡に成っていた。
。。。。。。。。。
二十年以上前。。。。
寒そうな顔で弘子は自転車で冬の夜道を帰ってきた。
帰ると直ぐに「お母さん、恐いのよ」青ざめた形相で訴えた。
「どうしたの?」
「痴漢よ、痴漢に遭ったのよ」
「何処で、なの?」
「道路に潜んでいたのよ」
「えー、この寒い時期に?大丈夫だったのかい?」
「必死で逃げてきたわ」
「そうなのかい、変なのが多いから、気を付けないと、街灯も無い場所?」
「違うわ、役所の駐車場の処で待ち構えていたみたい」
「心辺り有るの?」
「無いわ、でも恐い」
「嫁入り前で若しもの事が有ったら大変だわ、お父さんに相談してみるわ」
「家も知っているのかしら?」
「偶然見かけただけなのかも、明日からも注意して通学するのよ、もう少しで卒業だからね」
「はい、また、変な事が有ったら、警察に守って貰わないと恐いわ」
そう言って弘子は自分の部屋に入って行くと、暫くして妹の聡子が「お姉ちゃん、痴漢に胸を触られたのだって」と弘子の部屋に入るなり言い出した。
「誰が、胸を触られたって言ったのよ」
「違うのか」
「お姉ちゃんにも、男性が寄って来たのね、良かったね、魅力有ったのだ」
「嫌よ、痴漢は要らないわ」
二人の話しに似た様な事を、その夜直樹と俊子は話し会っていた。
「弘子も、そんな年頃に成ったのだね」
「そろそろ、昔から口約束の笹倉の叔母さんに、話しをして、準備をしないと、駄目でしょうかね」
「そうだな、叔母さんは六人の子持ちだ、婿養子一人お願いしますと、酒の席ではよく話したが、正式には一度も話して無いからな」
「笹倉の家は清巳、久雄、武雄、勝巳と四人も男が居て羨ましいよなあ!」
「弘子が恋愛でもして、都会の男を連れて来たら大変ですからね」
「弘子も綺麗に成ったから、虫が付かない間に決めた方が良いな」
「結婚しなくても、本人達が自覚してれば、もう少し時間が過ぎてもいいじゃないですか」
「武雄さんか勝巳さんが候補ね」
「武雄君は何処に仕事行っていた?」
「地元の農機具店でしたよ、勝巳さんは去年大学出て旅行社とか聞きました」
「農業して貰うなら武雄君だな」
「でも、これからは大学出てないと、弘子も短大出ていますから」
「武雄君は高校か?」
「普通科では無かったと思いますよ、話しが合いませんよ」
「でも、農業が」
「お父さんがまだ若いから、定年まで農業出来ますよ」
「定年後に農業をして貰うか!」
「機械が良く成ったから、農繁期に少し手伝って貰えば充分でしょう」
「そうだな、来週でも一雄さんに会いに行くか」
桜井の家では勝巳を婿養子に貰う事で、話しをする事にしたのだった。
笹倉の家から帰った直樹が問題は本人達が気に入るかが、大きな問題だと云う話しに成ったと言う。
次回は休みの日に弘子を伴って行く事にする直樹だった。
弘子には内緒で、顔見せで連れて行こうと二人は思った。
笹倉の家では、婿養子に行く事を武雄も、勝巳も良い返事をしない。
「まだ、十九歳だろう、小便臭い姉ちゃんだろう?」
勝巳が言うと武雄が「何度か見た、おでこの大きい綺麗で無かった女の子だ」と言う。
一雄が「お前達のどちらかが婿養子に行かなければ、桜井の家は困ってしまうのだよ」説得する。
「田んぼは幾つ程有った?」
「一町と少し有るだろう」
「田んぼ一町で、一生小便女を相手にするのは辛いな」
「親父の頼みでも俺は降りた」と勝巳が言うと「農協の女で気に入った女性が居るのだ」と武雄も逃げ腰に成るのだ。
「兄貴それ兄貴の片思いだろう」と勝巳が茶化す。
「来週本人を連れて来るらしいから、お前達も自宅に居てくれ」
「えー、俺遊びに行く予定だったのに」と言う勝巳に「必ず二人は家に居る事!」そうきつく言う一雄だった。
弘子は顔見せに行く事を知らない。
最近行ってないから、一度祖父母に挨拶に行こうと言われていた。
それは弘子が自動車の免許を取得したから、直樹が買い与えたからだが、運転がしたい弘子。
嬉しくて弘子は何も考えないで直樹を乗せて、笹倉の家に向かったのだ。
「こんにちは、ご無沙汰しています」とお辞儀をする弘子を見て、笹倉の家族の全員、目が点に成っていた。
弘子に会った智恵美が勝巳の部屋に慌てて走って行って勝巳に「勝巳兄ちゃん、武雄兄ちゃんに取られてしまうわよ」と大きな声で言った。
「何を?」
「桜井さんの娘さんを!」
「兄貴に譲るよ、俺は要らないよ」
「お兄ちゃん、それ本気?映画スターみたいなのよ」
「お前、兄貴をからかうのが好きだな」
「本当だってば、先月封切りの映画に出ていた女優さんにそっくりよ」
「こんな、田舎に映画スターの様な女が居るか、眼鏡を買えよ」と笑いながら相手にしない。
武雄も婿養子に行きたくないので、納屋で農機具の点検をしていた。
姉嫁の富子が「武雄さん見に行きなさいよ、今公開している映画の主役の女の子にそっくりの娘さんですよ」と呼びに行った。
「お姉さん、冗談が多いですよ」
「武雄さん、そんな事ないわ、本当よ、私なんて問題外よ、女優さんよ!」
そう言われて渋々油で汚れた手を拭きながら納屋から出て来た武雄が、唖然として見とれて居た。
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