第15話真実?

  7-15

東京から帰った二人は週末、陽子の希望で母弘子の短大に向かった。

夏休み中で閑散とした校内、クラブ活動の生徒が数人、運動の練習をしていた。

それでも、陽子は此処で何十年か前に母が学んだのかと思うと感無量の陽子で、正造も学校に来たのは初めてだった。

運動の生徒が会釈をして「娘さんの入学ですか?」と声を掛けてきた。

正造が笑顔で頷くと「楽しい、学校ですよ、是非に」と言ったのだ。

「ありがとう、叔父さん、いやお父さん」涙目の陽子の肩を叩く正造。


野々村兄弟が陽子の処にやって来たのは翌週だった。

「親戚の所に用事が有りまして、会えませんか?」と電話が有ったのだ。

「何か?判りましたか?」

「少し判りました」と言うので、駅前の喫茶店で会う事にして、陽子は出掛けて行った。

智也と伸也は陽子を見つけると、手を振って呼んだ。

「先日はどうも」と会釈をすると「父がその後少し思い出しまして、旅行には短大時代の友達と一緒に行ったと覚えていました」と話した。

「やはり、そうなのね、大山さんだわ」

「それと、結婚式に出席の為だったらしいですよ」

「結婚式ですか?何方の式でしょうかね」

「大学の友人じゃないですかね、事故は、約十七年程前の事だったみたいですよ」

「そうですか、ありがとうございました」と会釈をした。

二人は申し合わせ居たのか急に「陽子さんはお付き合いをされている男性とか特定の決まった人は?」伸也が切りだした。

「決まった人は居ませんが」

「そうですか、僕達とお付き合いをお願い出来ませんか?」と嬉しそうに言う。

「お二人と?」と不思議そうに言うと「二人と付き合って、どちらかを選んで貰えれば」と微笑んだ。

「私、決まった人はいませんが、好意を持っている人はいますわ」

「えー、片思いですか?」と驚いた様に言う二人。

「そうでしょうか?自分では判りません」

二人はその後各自の自己紹介を延々とするのだった。

陽子は聞き流していた。

兄の智也の仕事がセントラル旅行社だと、弟は大学の四年生、来年大手の広告代理店に就職が決まっている。

その二つしか、頭に残ってなかった。

陽子は二人に興味が無く、正造が心の片隅に居たのだ。


二人と別れた陽子が直ぐに正造に電話で、聞いた内容を話した。

「お母さんでは無いですね」

「何故?」

「陽子さん、十八歳でもうすぐ十九歳でしょう」

「そうだったわ、もう母は結婚していますね、それに母の友人の結婚式に夫婦では行きませんよね」

「ですね、大山順子さんと野々村真希さんは共通の友達の結婚式に、韓国に行って事故に遭ったのかも」

「母とは関係無い訳ですね」

「一度その事故を調べてみますよ」

「事故は専門ですね」

陽子は事故の事は正造に任せれば安心だと思った。


笹倉真子さんを探さなければと、暑い日差しの中、自転車で向かうのだった。

久々に行った笹倉の家には、七十歳位の老婆が来ていた。

「こんにちは桜井と言いますが?真子さんいらっしゃいますか?」

そう尋ねると老婆は急に「桜井?あっ!、疫病神だ、その名前は聞きたくない」と家の中に入ってしまった。

陽子は呆れ顔で帰る以外に術が無かった。

笹倉真子の母で、先日連れ合いが亡くなって、久々に息子の家に遊びに来ていたのだ。

笹倉貴江には桜井の名前を聞くだけでも気分が悪いのだ。

逆恨みをしていたのだった。

陽子は呆れて帰る以外に方法が無かった。

何が有ったのだろう?桜井と云う名前を毛嫌いしていた。

何だろう?母と関係が有るのだろうか?

笹倉のお婆さんの病院が近くだから寄って行こう、陽子が今度は病院に自転車を走らせた。

病室に行くと娘の片山久美子さんが見舞いに訪れていた。

「陽子さん、こんにちは、暑いのに来てくれたの?」

「ご無沙汰しています、近くに来たので、これ召し上がって下さい」と近くの店で買ったプリンの箱を差し出した。

「気を使わなくて良いのよ」

「お婆さん寝ているの?」

「そうよ、昼を食べて暫く話しをしていたら、寝ちゃったわ」

「叔母さん、少し聞いても良いかな?」

「何?」

「叔母さんって兄弟は何人なの?小さい時に亡くなった人も居るって聞いたのだけれど」

「突然どうしたの?」

「お母さんは兄弟居ないから、叔母さんの兄弟多いから聞いて見たの」

「そうね、昔は賑やかだったわね、二人亡くなったからね、六人だね」

「多いですね」

「一雄兄さんの次男の順平君が、陽子さんに興味有るらしいわ」

「そう、何しているの?」

「警察官」

「硬い仕事ね、先日お婆さんが此処で話していたのだけれど勝巳さんって誰?」

「勝巳さん?」と言うと、ベッドのお婆さんが起きて「勝巳がどうした、清巳も何処に行った」と叫んだ。

「お母さん、何を言っているの?」と久美子が慌てて宥めたのだった。

陽子は「夢を見ていたのね、お婆さんお大事にね」と病室を出たのだった。

帰り道何かを隠して居るわ、今日は清巳が登場した。

勝巳との関係は何?そして桜井は疫病神って?

帰り道、疑問が頭の中をグルグル巡っていた。

家で祖父に聞きたい!でも教えてくれないだろう?先日の慌て方を見てもそれは容易に想像出来たのだ。

夜、寝ながら、母の写真に問いかけていた。

「何が有ったの?」

「お父さんは誰なの?」

「お母さんは死んだの?」

問いかけた後に出てくる顔は正造の顔だった。


翌日正造に連絡すると、役所に行って戸籍謄本を取れば判る事が多いかもとアドバイスを受けて、早速陽子は向かった。

健康保険証と学生証を提出して、ドキドキしながら待つ陽子。

恐る恐る見た桜井直樹、俊子、勝巳、弘子、聡子、そして自分の名前が記載されていた。

勝巳はお父さんだったのだ。

そして嬉しい事に誰も死亡に成っていなかった。

急に元気に成る陽子!

お父さんとお母さんと叔母さんが一緒に海外に行ったのかな?

今度はその様な疑問が生まれて来るのだった。

早速正造に連絡して、一度見て欲しいと頼むのだった。

何かを口実に会いたい気持ちの方が強かったのだ。


直樹が病院で久美子に会って、智恵子を交えて話し会っていた。

もう陽子も大人に成って、今、勝巳の事で疑問に思っているから、話す方が良いのではと進言していた。

問題は何処まで話すか?

三人の意見は分かれていたが、変に誤解をするより、今までの話しに父勝巳の事を付け加える事で、取り敢えず陽子の疑念を払拭しようとした。

陽子の頼みに正造は忙しいを理由に会うのを拒んでいた。

それは正造もこれ以上陽子に近づくと、本当に好きに成りそうだった。

自分を抑えられない怖さが有った。

弘子から陽子にそれは出来ない。

自分の年齢の事を考えると、とてもこれ以上陽子を好きに成れない自分だった。


忙しいと言われて仕方無く諦める陽子に、翌日直樹が話しを切りだした。

「陽子、実はお前が疑問に思っている事が有ると思うから、今から話しをして置くから」

神妙な直樹の顔に緊張の陽子。

「陽子のお父さんの事なのだが、実は今病院に入院している笹倉のお婆さんの息子さんなのだよ、勝巳さんって云うのだ」

「やっぱり、そうだったのね、小さい時から運動会とかお婆さんとお爺さんがよく来てくれたから、変だと思っていたの」

「だがなあ、お前の両親が揃ってお前を捨てて海外に行ってしまったので、可愛そうに思って黙っていたのだ」

陽子が立ち上がって自分の鞄から戸籍謄本を直樹に見せて「これは?」と聡子の名前を指さした。

驚く直樹「陽子、これは」

「そうよ、不審に思って貰って来たのよ」

狼狽する直樹、困り顔の直樹に「この聡子さんって、お母さんの妹さんでしょう、何故この家に居ないの?結婚しているの?戸籍は結婚してないわ」

「。。。。。」

「三人揃って何故?」

二人の話に俊子が部屋に入って来て「陽子がそこまで知ってしまったら、言わないといけないね」

「教えてよ」

何を言うのか心配になる直樹に俊子は意外な話しをした。

「色々有ってね、二人が海外に行ったのを追いかけて行ってしまったのだよ」

「えー、それって」顔色が変わる陽子。

「こんな話し出来ないだろう、だから言えなかったのよ、許してね、陽子」呆然とする陽子、呆れ顔の直樹。

二人が部屋を出て考え込む陽子、三人が自分勝手な解釈をして理解をしていた。

俊子はそれが狙いだった。

はっきり言えない事柄だと理解させたのだ。

陽子は父勝巳と聡子が恋をして海外に逃げたのを母が追いかけて行ったのだ。

だから写真も統べて処分したのだと、三角関係の縺れ?スキャンダル?

誰も言わない理由が漸く理解出来たと思うのだった。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る