第14話楽しみな孫の成長

 7-14

この時お互いが異性を感じて、陽子は漸く落ち着いて眠りに就いた。

正造の腕枕で安心して正造も眠った。

でもこの恐がり様は相当なものだと思うのだった。


陽子は子供の頃一人で寝ていて、山崎断層の地震で本棚が倒れて来た事が有ったのだ。

布団の端に本棚は倒れたが、その時側には誰も居なくて、祖父母は下で寝ていて恐い思いをしたから、地震は怖いのだ。

特に夜の地震には過剰反応をするのだった。


翌朝、照れくさそうに「昨夜はすみませんでした」と言った。

「地震が怖いのだね」

「子供の時に恐い事が有って、昨日一人だったらどうなっていたか」

「大丈夫だよ」

「必死でしがみついちゃいましたね、キスまで。。。恥ずかしいわ」

「気にしなくて良いですよ、恐い時は異常に成るものですよ」

「叔父さんをお母さんから奪ってしまいそうです」

「えー」

今度は陽子の告白に戸惑う正造だった。

「朝風呂に入ります」

正造はむず痒くなって露天風呂に入った。

昨夜の大雨が嘘の様に朝日が差し込んでいた。

一体どうなっているのだろう?二十年前話しも一度もしていない。

勿論手も触ってない弘子の子供とキスまでして、告白までされた。

まだ会って二ヶ月程、何が起こっているのだ?正造は訳が判らないが陽子の事は好きだった。

弘子は一目惚れだけで性格も何も知らない。

でも陽子は少なくとも性格も知っているし裸も見た。

シルエットだが、キスもしたし、デートも何回かした。

風呂でそんな事を考えて居たら、中の浴槽から「今は何も見えないでしょう、外が明るいから」陽子もお風呂に入っていた。

「全く見えないよ、お風呂に入っているのも知らなかった」

「私の身体綺麗?」

「綺麗ですよ、とってもね」

「そう、ありがとう、叔父さんが初めてよ、見た人」

昨日までの陽子とは明らかに違う雰囲気が有った。

陽子は咄嗟の事だったけれど、男性とキスをした事に間違いは無かった。

正造に異性を感じたのは間違い無かった。

昨日までのお父さんは消えてしまったのだ。

朝食の時、仲居が「昨晩地震が有りましたね」と話した。

「はい、恐かったです」

「熱海は地震には強いのですよ、坂が多いのですが、岩盤ですからね」

「でも地震は怖いです」

朝から沢山の料理が運ばれて来て「凄い量ですね」

「本当だ、これなら一杯飲めるな」

そう言うと正造がビールを注文した。

ビールが届くと陽子が自分のグラスを差し出す。

「飲むの?」

「一人で飲むより楽しいでしょう」そう言いながら微笑んだ。

「お酒好きなの?」と聞くと「美味しいわ」

昨夜から陽子の態度が変わった事を感じたのだった。


結局二人が地元に戻ったのは夕方だった。

陽子はそれから一時間後に自宅に戻った。

「お爺さん只今、楽しかったわ、これお土産」東京タワーの土産を差し出すと「東京タワーに言ってきたのか?」と東京に行く以外は殆ど聞いていなかった様だった。

(叔父さん、今自宅に無事、戻りました、どうもありがとう、とっても楽しかったわ)とメールを送った。

(叱られなかった)と返事が来て(大丈夫だったわよ)とメールが終わった。

陽子の頭には正造が一人の男性として残った。

正造にも陽子を女性と感じていたのだった。


翌日陽子の携帯に聞き慣れない男性が電話をしてきた。

それは先日会った野々村の長男智也だった。

「先日起こしに成った、野々村の智也です」

「先日は突然お邪魔しまして、すみませんでした」

「実は夜、父が帰りまして、聞きますと、叔母さんは飛行機事故で亡くなったと言いましたのでご連絡をと思いまして」

「飛行機の事故?墜落ですか?」

「それは言いませんでした、父も詳しい事を知らないのかも知れません」

「ありがとうございました、また何か判ればお願いします」

「判りました」

電話を切って暫くして、又携帯に電話が今度は弟の伸也が、父に聞きましたら、飛行機の事故は韓国だった様ですと電話をしてきた。

不思議に思ったが二人の兄弟は陽子に一目惚れをしていたので、揃って父親に何か覚えていないかと問い詰めて聞き出したのだった。

陽子は正造に連絡をして、二人は若しかして、大山順子の事故も韓国旅行?飛行機事故も確かに交通事故だ。

でも韓国旅行と陽子の両親の海外に移住した事は結びつかないのだった。




二十年前。。。

弘子は陽子の顔を見て「一週間の辛抱でちゅー」

産まれて一年の可愛い陽子は、母弘子を見て笑う。

それは陽子が見た最後の母の姿だった。

大きなバッグを持って玄関を出て行く、通りに車が待って居る。

「お待たせ」そう言って乗り込む。

「真子を拾って、空港まで直行ね」

「充分時間有るよ」

「順子と真希は電車で行ったから遅れないわ」

「伊丹からなら楽なのにね」

「まあ、将来は伊丹から飛ぶだろうがね」弘子の主人勝巳が言う。

「でも未だに信じられないわね、私達がモニターに選ばれるなんてね」

「それは、弘子が綺麗からだよ、選考委員も顔で選ぶだろう」

「憧れね、ハワイで結婚式だなんてね」

「羽田までの運賃も出してくれれば良いのにね」

「それは贅沢だよ」

「聡子昨日から東京に行っているのだけれど、大丈夫かな?」

「聡子さん、しっかりしているから大丈夫だよ」

車は笹倉真子の家の近くに着いて、外に真子が待って居る。

桜井勝巳が弘子の旦那で、セントラル旅行社の東播支社に勤務していた。

弘子より四歳年上で、セントラル旅行社で来年から売り出す海外で挙式のモニターを社内で募集したのだ。

条件は結婚式を行っていない結婚三年以内の社員、若しくはこれから結婚をする社員が対象だった。

勝巳は弘子が直ぐに妊娠をしたので結婚式を行って無かった。

陽子が少し大きく成ってから、式だけでも行う予定だったのだが、こんな企画が持ち上がって応募して当選するとは夢にも思わなかったのだ。

招待客十名と本人達の計十二名が無料でハワイの結婚式場で挙式を挙げられるのだ。

両方の父も母も飛行機が恐いと辞退した。

家族で参加は聡子と清巳の二名、他は友人だった。

参加者は夢のハワイ旅行に行けると大いに喜んだ。

東京羽田までの旅費なんて、大した問題では無かった。

一流ホテルに宿泊してカメラで撮影されるのだが、殆ど来客は写らないから心配無いと言われていた。

新婚さんの荷物が多いので、兄の清巳は勝巳の友人と空港に二台に別れて向かったのだ。

伊丹空港から羽田で合流して、韓国の航空会社でハワイに向かうのだ。

それはこの企画が安価で海外挙式を、がテーマだったから、総勢十二名が羽田に集まり韓国の空港を経由でハワイに向かったのだ

だがハワイには到着しなかった

金浦空港に到着の前に、消息が。。。。。。だった。

懸命の捜索の甲斐も無く行方不明で終わったのだった。

日本人の乗客は二十人程度で殆どが韓国とアメリカ人だった。

外国の為日本の捜査が出来なかった。

桜井直樹、俊子夫婦には、一瞬で子供二人が消えたショックは計り知れなかった。

旅行社に尋ねる以外に方策は無い。

その後、北の拉致の噂も出たが証拠も何も無かった。

夫婦には諦めきれなかった。

その為何年経過しても墓も位牌も存在していない。

一人残された陽子が、両親の事を知ると悲しむのと、大きく成って探しに行くとでも言い出したら大変だと、両親は海外に行ったと教え込んでいたのだった。



事故から、もうすぐ十七年の月日が流れようとしていたのだ。

陽子の小さい時はまだ望みも持っていたが、ここ数年は陽子の成長だけが直樹達、二人の楽しみなのだ。


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