第13話陽子のヌード

 7-13

奇妙な光景が部屋で行われていた。

風呂場に着替えとか浴衣を持ち込んで、鼻歌を歌いながら湯船に浸かる陽子、露天風呂に入る正造。

磨りガラス一枚隔てて二人は湯船に、部屋が明るいのでシルエットで、磨りガラスに陽子の裸体が映し出される。

陽子は見えないから判らないが正造の方から、湯船を立ち上がるとスタイルが物の見事に見えるのだった。

見ない様にしようと思えば思う程見てしまう。

細いウェストに適度な乳房のライン、よく見ると乳首まで見えそうな感じだ。

長い脚、綺麗に上がったヒップ、若さに溢れた身体、長い髪が乳房に絡みつく。

正造には我慢出来ない光景だった。

思わず湯船に頭を沈める。

シルエットが消えて、陽子は髪を洗っている感じだ。

正造は露天風呂を出て冷蔵庫のビールを飲んで、浴衣を着て髪を乾かす。

そしてテレビを見ていると、浴衣を着て髪にタオルを巻いて陽子が出て来た。

「この部屋最高ね、洗面台も二つ有るから便利ね、お湯も良かったわ、外のお風呂は広いから良かった?」

「う、うん」と生返事の正造。

「食事の時間迄に髪乾くかな?長いから時間がかかるのよ」そう言いながらドライヤーで乾かし始める。

「手伝ってあげようか?」

「えー良いの」

「お茶でも飲んで、テレビ見てれば!」

そう言って冷蔵庫の冷えたお茶を差し出す。

「ありがとう」

正造が陽子の髪を持ってドライヤーで乾かす、弘子の髪を触っている感覚に成っていた。

先程の裸体が瞼に浮かぶ、浴衣の隙間に胸の膨らみが感じられる。

生唾が出そうに成る程、艶めかしい陽子の姿と髪。

「本当のお父さんみたいだね、実はお父さんにして貰いたかったのよ」

「そうなの?」

「女の子ってお父さん好きじゃない、初めて好きに成る男性だもの」

「そうりゃ、そうだね」

そう言いながら正造は陽子の髪を触るのが気持ち良かった。

暫くして「乾いたかな?」と言うと「後は自分でするわ、ありがとう」

綺麗に整える陽子、浴衣に綺麗な黒髪が映えていた。

食事処に行くと、色鮮やかな付き出しの料理が並べられていた。

「綺麗ね、美味しそう」

仲居が飲み物を聞いた。

勿論ビールの正造だが、陽子が「ビール飲んだ事無いけど、少し飲みたいな」と甘えて言った。

「未成年だろう?」

「お父さんが美味しそうに飲むから」

人目が有るからお父さんと呼ぶ陽子に目を細めて「じゃあ、少しだよ」とグラスに注ぐ、よく冷えたグラスに注がれて、正造のグラスにもビールが「じゃあ、乾杯」

「乾杯」とグラスを当てる。

一気に飲み干す正造、少し飲んで「冷たくて美味しい」と言い出す陽子。

「飲める口かな?」

すると小声で「呼び捨てで呼んでよね、さんは、駄目よ」と陽子が先回りして言った。

外は大粒の雨が一層激しく地面に叩き付けていた。

二人には全く気に成らなかった。

次々に運ばれる料理、飲み干すビール、金目鯛の煮付けが並んで「この魚何?食べた事無いわ」

「美味しいよ、関西には余り馴染みがないからね、食べてみて」

身を取って一口食べて「美味しいわ、こんなの食べた事ないわ」

「ドンドン食べて」

「良いの?幾らでも食べれそう」

「この刺身も金目だ」と教えると早速食べる陽子。

「これも、美味しい」

いつの間にか二敗目のビールも飲み干している陽子。

「まだ、飲むの?」

「はい、美味しいです」

「少し酔ってない?」

「酔っていません」

「まあ、もう寝るだけだから」

そう言いながらグラスに注ぐ。

陽子も「はい、お父さん、どうぞ」そう言いながらもう何杯目だろうか?正造は美味しそうに飲むのだ。

こんなに美味しい料理に、可愛い陽子?弘子?と飲む酒の美味しさを噛みしめていた。

陽子は初めての酒にしては、三杯飲んでも平気だった。

かえって頬を赤く染めて色っぽい感じで大人びた姿に見えたのだ。

正造は遠い昔を思い出していた。

若しも、弘子と付き合っていたら、この様な光景が有ったのだろうか?今の現実は信じられない。

弘子と瓜二つの娘と、高級旅館で差し向かえで食事をしてお酒を飲んでいる。

陽子と同じ部屋で今夜眠るのか?頬を摘む正造の仕草を見て「お父さん、お母さんを思い出しているでしょう」と言った。

「陽子は判るのか?」

「お父さんの考えている事は、あの占い師さんよりよく判るわよ」

「それは、凄いな」

そこに仲居が冷やした茶碗蒸しとにぎり寿司を持って来た。

「まだ、来るのだ、私満腹」と笑う。

それでも茶碗蒸しを一口食べて「美味しい、満腹でも入る」と言ったら仲居が笑って「この後、デザートのアイスクリームも有ります」と笑いながら言った。

「お嬢様本当にお綺麗ですね」と笑って空いた器を盆に載せて運んで行った。

「お父さん、このお寿司も美味しい」

「満腹だったのでは?」

「また、入るのよ、不思議ね」

正造がトイレに行くと陽子が仲居を呼んで「此処って二人で幾らなのですか?」

「はっきり判りませんが一泊二食でお二人様十一万程でございます」

陽子は心でびっくりしていた。

もう少しで声に出そうだった。

部屋は広い、お風呂は二つ、テレビ付、料理は最高、そうだろうな、叔父さんにとんでもない散財をさせてしまったな、どの様にお礼をすれば良いのだろうと考えていたら、正造が戻って来た。

直ぐさま仲居がおしぼりを持参してくるので、こりゃ、高い筈ねと納得する陽子だった。

デザートのアイスクリームも食べきって満腹顔の陽子。

「部屋に戻りますか?」

「はい、ごちそうさまでした」とお辞儀をする陽子、満腹の二人。

仲居が朝食も同じ場所で八時と告げて深々とお辞儀をしたのだった。

食事処を出て「料理のバランスが良いのよ、だから満腹でも食べられるのね」

「美味しかったね」

「もう一度温泉に入ろう、今度は交代よ」

そう言いながら部屋に戻る二人、時間は夜の十時を過ぎていた。

長い時間食事をしていたのだと正造はほろ酔いで、すっかりシルエットの事を忘れていた。

内風呂はその度にお湯を入れないと入れない。

陽子が湯船にお湯を貯める。

「叔父さん、一杯に成ったら止めてね、私外のお風呂に入るから」

陽子は髪を後ろで束ねて露天風呂に向かった。

「凄い雨だわ、屋根が無かったら入れないわ」

そう言いながら浴衣を脱いで湯船に浸かる。

正造が内風呂に入って、浴槽の蛇口を止めるその姿が陽子から見えた。

あっ、見えるじゃん!

叔父さんに見られたのかと苦笑いをしていると、浴衣を脱いで正造が入って来たのを見て「す、ご、い」言って顔を赤くする陽子だった。

陽子は先に風呂を出た。

冷たいお茶を飲んでいたら、正造が風呂場から出て来た。

「叔父さん、私のヌード見たでしょう」

嘘は言えなかった。

すっかり忘れていたと照れくさそうに「綺麗から見とれていました」と言うと「これで旅館代は無しね」と笑った。

本気で怒っていなかった。

親父に裸を見られた娘の心境だったから「私はもう寝るよ、疲れたから」そう言って寝室に向かった。

陽子は少し緊張していた。

産まれて初めて知らない男性と一緒に眠るから、暫くテレビを見てから、寝室にゆっくりと入る。

大きめのベッド、程良い室温で暑くないので眠れそうだ。

正造は軽く鼾をかいていた。

寝ているわ、そう思って自分のベッドに潜り込む陽子。

暫くして寝た瞬間、部屋が揺れた。

「あっ、地震だ!」飛び起きる二人、いきなり正造にしがみつく、陽子は地震が嫌いだった。

恐かったのだ。

暫く揺れて収まったが陽子は震えて離れない。

「どうしたの?」

「駄目、離さないで」そう言って震える陽子。

浴衣の胸元が乱れて、裾も乱れていたが離れない。

「大丈夫だよ」その時二度目の小さな揺れが有った。

「駄目、もっとしっかり持って」そう言われて、抱きしめる正造。

もう我慢の限界で、いつか唇と唇が絡み合っていた。

陽子には男性との初めての口づけだった。

漸く落ち着いたのか、身体の震えが収まった。

震度四位の地震だったが、陽子の怯え方は尋常では無かった。

顔は青ざめて震え、正造が抱きしめ無ければどうなった?

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