最後の雨を待つ...vol.4

朝靄は、南国の雨の匂いがしていた。

雨季は、もうすぐ終わるという。

砂浜に残るものは、すべて生命の残骸だ。

生きているものは、自力で海に帰っていった。

死んだものだけが、陸に留まっている。

繰り返す波の音と、桟橋に並んだヨットの影が、幾何学的でどこか恐ろしかった。

自分もまた死んだものなのかもしれないと、僕はまだぼんやりしている頭で考えていた。

だから、乾いた陸地で生きていける。

どこにでも行けるのだ、と。

  

朝靄の中、何かが、僕のすぐ後ろをついてきているような感覚があった。

呼吸、波長、夏の足跡、朝の孤独。

海に帰れない僕たちは、静かに最後の雨を待つ。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る