第4話

 ハンバーグは意外と寛容な料理である。

 ①ひき肉、パン粉、その他の具材を捏ねて混ぜ合わせる。

 ②形を整える。

 ③加熱して火を通す。

 ひき肉の配分、付け合わせ、ソースと特に限定はされてもいない。

 大雑把に言えば、この条件に合えば味の良し悪しに関わらず、ハンバーグとして認められる。

(だからこそ工夫の余地が大きいわけだけど、矢澤はどうするつもりなんだ?)

 思えば、最近は自分で料理するばかりで、誰かに料理を作ってもらうことなどなかった。

 矢澤が示したい「答え」というのも気になるわけだが、純粋に彼女の作る料理が楽しみでもある。

「しかし……」

 野々宮の気になっている事があった。

「矢澤が調理室を勝手に使っていいのか?」


 放課後、いつもと同じように調理室へと向かう。

 だが、料理を食べるため、というのはいつもと異なった。

「失礼します」

 調理室の扉を開くと、調理室に漂う匂いもそうだが、矢澤自体にもいつもと異なる変化があった。

「思ったよりも早かったですね」

 そう言って調理室の丸椅子に腰掛けて足を組んだ彼女は暗めのスーツの上に白いエプロンを掛けていた。

 スーツとエプロン。

 意外にも矢澤にエプロンが似合っていたことは正直予想外だった。

「早く食べて下さい。冷めてしまうかもしれません」

 そう言って、立ち上がり用意した皿を持つ。

 野々宮はその皿を目にして思わず「あれ?」と声に出していた。

「どうかしましたか?」

「いえ、その皿が普通のやつよりも底が深そうに見えたので」

 その質問には何も答えず、ただ用意した鍋の蓋をあける。

(『鍋』?)

 野々宮が疑問に感じる前に「ハンバーグ」が姿を見せる。

 鍋に入れられたお玉で掬い上げたのは確かにハンバーグ。そしてソース。

 だが、ソースというには幾ら何でも量が多い。

「これって煮込みハンバーグですか?」

 煮込みハンバーグは、その名の通り焼いた後に煮込む工程を増やしたハンバーグ。

「これが私の出す『答え』です。さぁ、召し上がってください」

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